忠犬カノジョとご主人様



――――あんなに淡い思い出があった中で、まさかの職場での2度目の再会(双葉さんは俺のことを全く覚えていなかったけど)。

これはもう運命だ、完全に運命だ。今度こそ運命だ。

そう思ったのに、まさかこんな所でソラ先輩にも会うことになるとは思いもしなかった。


そう……双葉さんの彼氏として。


「あ、この前間男になる宣言した後輩」

「ぶっ」

「よ、間男予備軍」


仕事終わり、12時まで開いてるカフェで、まさかの海空さんと遭遇した。

資格の勉強をするためにいつもここに寄っていたのだが、まさか海空さんも行きつけだったとは……。


「ちょ、やめて下さいそんな呼び方」

俺はカウンターで受け取ったコーヒーと軽食をお盆に乗せ突っ立ったまま、海空さんの言葉を制した。

「予備軍ってつけたじゃん」

「そういう問題じゃないです」

「……資格の勉強?」

「はい……はやく昇進したいので」

「へえ、頑張ってね」


海空さんは、最初俺と一度目を合わせただけで、一度も俺の方を振り返らなかった。

……ビルの9階にあるガラス張りのこのカフェは、窓際なら夜景が一望できる。

悔しいけど、その夜景と、ブラックコーヒーと、彼を信頼して託された仕事の数々は、恐ろしいくらい彼に似合っていた。

あんなに膨大な仕事を抱えているのに、部下には全く疲労を見せない彼の働きっぷりは、正直尊敬してしまう。さすがエリートと謳われているだけある。


「……いつも、帰り遅いんですか?」

「家に仕事を持ち帰りたくないからね」

「……双葉さん、もしかして起きて待っててくれてるんじゃ……」

「待ってるどころかご飯も作っててくれるよ」

「………」

「でも、クルミは、俺は恋愛より仕事がはるかに大切だってことを、理解してる」

「……そう、ですか……」

「そこを理解してもらえないと、俺は誰とも付き合えないよ」

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