忠犬カノジョとご主人様
追いかけてきた俺に驚いたのか、双葉さんは目を見開いていた。まんまるな目も可愛い……いや、そうじゃなくて!
成り行きとは言えど双葉さんの肩に手を置いてしまい、俺は慌てて手を引っ込めた。
「あの、帰っちゃうんですか?」
「あ、今日22時からマルチステージにゼウスが降臨してるから……じゃなくて明日朝早くて!」
「そうなんですか……。それは仕方ないですね」
「あ、あれだね、八神君今日ずっとまんべんなく話しかけてくれてたよね? 凄い気遣い屋さんでいい子だなって思ってたよ」
「えっ」
カーッと顔面が赤くなっていくのを感じた。
いい子、という表現の時点で俺を男として見ていないのは分かっていたのに、ちゃんと俺を見ていてくれたという事実が嬉しかった。
「じゃあね、八神君、おやすみ」
「あ、おやすみなさいっ……」
改札の向こう側に消えていく双葉さんを見つめながら、俺は何度も双葉さんの笑顔を思い出して恍惚としてしまった。
ぼーっとしすぎて、俺は双葉さんの連絡先を聞かずに別れてしまった。
あれから何度も近所のコンビニに足を運んだけど、あの日はたまたまヘルプで来ていただけだったそうだ。
後に合コンに来ていた子伝にIDを聞くことができたけど、結局LINEを送る勇気が出なかった。
それから冬が来て、春が来て、双葉さんはあっという間に社会人になってしまったのだ。