【完】私と先生~私の初恋~
夏休みがもう終わる頃、私はやっと先生に返事を書いた。


夏休みは楽しかったこと。


先生から手紙が来て嬉しかったこと。


歌は習いはしてないけれど、発声練習だけは欠かさずしていること。


花火大会で会えなくて、残念だったこと。


便箋3枚たっぷりに色々書いて、季節ごと以外での返事が来るようにと、祈るように投函した。


私の踏ん切りをつけたはずの心は、やっぱりまた先生に戻ってしまったのだった。


祈りが通じたのか、それからは二月に1回程度の頻度で文通が始まった。


他愛のない世間話ばかりだったが、たったそれだけでも繋がりが持てている喜びで、私の心は十分満たされていた。


また幸せな日々が、少しだけ戻ってきていた。


心が平常を取り戻すと、成績は面白いほどグイグイと上っていった。


このまま頑張って先生のそばに…とは思ったものの、当時母子家庭だった我が家の家計的には苦しく、仕方なく奨学金を使って地元の高校を受験した。


結果は余裕の合格。


私は晴れて高校生になった。


高校1年。


16歳になった私は、すぐにバイトを始めた。


理由は、携帯電話を持つため。


同級生の間でも持ってない人は少数になっていたし、何より先生との手紙以外の連絡ツールが欲しかったのだ。


近所に昔からある、そこそこ大きな喫茶店のウェイトレス。
時給こそ低めだったが、マスターがとても優しく大事にしてくれたので、バイト自体は楽しいものだった。


そして、みっちり働く事2ヶ月。


念願の携帯電話を手に入れた私は、先生への手紙にはメールアドレスだけを添えた。


番号まで書いてしまったら何か厚かましいと思われるような気がして、子供心に遠慮をした結果だった。


住所を書いたメモを渡す時より緊張しながら、私はまた祈るように手紙を出した。


数日後、緊張や不安とは裏腹に、先生からのメールがあっさりと届いた。


本文は先生の名前だけという恐ろしくシンプルな内容だったが、それだけでも私は十分すぎるほど嬉しかった。
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