【完】私と先生~私の初恋~
振り払うように大きく首を振り、ギュッと体育座りをする。


顔を埋めたシャツの袖から、洗濯物のいい香りがした。


少しだけ気持ちが軽くなったような気がして、私はその体勢のまま先生の帰りを待った。


じっと座って暫くウトウトしていると、玄関の方からガチャっと音がした。


ビクッとして顔を上げる。


部屋の扉がそーっと開いて、先生が入って来た。


目が合うと先生はニッコリ笑う。


「あぁ、起きてましたか。よく眠れました?」


私が小さく頷くと、先生は「よかった。」とだけ言い、リビングの隣にある部屋に入っていく。


チラリと見えた部屋の中はカーテンが閉めっぱなしなのか薄暗く、ど真ん中に置かれているであろうベッドの陰が何となく見えた。


少しだけ開いた扉の向こうから、先生の着替える音が聞こえる。
私は急に恥ずかしくなって下を向いた。


Tシャツとジーパンに着替えた先生は欠伸をしながらテーブルの脇に座ると、ハハっと笑った。


「昨日あんまり寝てないから。失礼しました。」


慌てて私は首を振る。


「ごめんなさい、私のせいです。先生に迷惑かけちゃいました…本当にごめんなさい。」


「いえいえ、お気になさらず。元はといえば勝手に連れて来た僕が悪いんですよ。………さて…」


先生はちょっとだけ真剣な顔をして、話し始めた。


「とりあえず、この状況を誰かに見られたらとってもマズイです。やましい事は何もありませんが、きっと誤解を招くでしょう。」


「はい…」


「なので、暗くなるまではちょっとだけココに居てもらいますね。大丈夫そうになったら、ちゃんと送りますから。」


「はい…」


「でも……失礼ですが、あの家に帰すのだけは僕も不安です。どこか代わりに帰れる所ってありませんか?」


「…………無いです」

私がそういうと、先生は困った様に笑いながら「ですよねー。」っと言った。


「困ったなぁ…どうしましょうか。」


先生が頭をポリポリとかいた。


返事ができずに俯いていると、先生はまた真剣な声になって話しを続けた。


「あの…非常に言い辛いのですが……」


私は黙って頷く。


「…児童相談所に連絡してみるのはどうでしょうか?」
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