【完】私と先生~私の初恋~
母と無言で掃除を終え、私は荷物をまとめに2階に上った。


たった5日帰ってきてなかっただけなのに、随分と懐かしく感じる。


あらかた身の回りの物をカバンに詰め終わると、私はどっとベッドに横になった。


大きく深呼吸をすると、吐いた息の分だけ毒気が抜けていくようで、心地よくなっていく。


私は、様々な事を思い出していた。


小さい頃、母がまだ優しかった時の事。


いつからかイジメられるようになり、暗くなるにつれて母との会話が無くなっていった事。


疎遠になっていきつつも、何故か小学校の卒業式に母は出席していた事。


ふと、母は寂しかったんじゃないかと、そう思った。


18で私を産み、世間からは好き放題言われ、実の両親からも死ぬまで会っては貰えなかった。


そんな中で母は、私と同じように荒んで行ったのではないか…


先生のように、優しく包み込んでくれる人が居たら、母の人生も別のものになっていたのかも知れない…


なんとなく、そう思った。


今まで漠然と母親としか見えていなかった母が、寂しい一人の女性に思えてきて、少しだけ切なくなる。


でももう大丈夫…母はさっき穏やかな顔をしていたじゃないか……きっとこれからはもう大丈夫…


私はそう確信してガバっと起き上がると、鞄を手に取り再びリビングに戻った。


リビングで母と二人静かに座っていると、玄関が開く音がした。


急いで玄関に向かう。


「お待たせしました。用意、出来ましたか?」


先生は私を見ると、ニコッと笑ってそう言った。


「はい、掃除もちゃんとしました。…先生は大丈夫でしたか…?」
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