【完】私と先生~私の初恋~
それから……。


地元では予想通り噂になったけれど、私は先生と一緒に暮らし続け、先生の転勤にも付いて行った。

最初こそ仕事を探したものの、先生の職業柄移動が多く、すぐに辞めてしまう事を考えて先生と話し合った結果、私は職探しを止めた。

先生の傍で、穏やかな日々を過ごす。


私が20歳になると、先生は「結婚…してみませんか?」と私に言った。


私は喜んで「ハイ」と返事をした。


結婚式はせず入籍だけ済ませ、二人だけで記念写真を撮った後、私達は新婚旅行がてら短い旅行をした。


そこでやっと先生は初めて私を女性として抱いた。


籍を入れて一年後。


33歳になった先生は教師を辞めて私の故郷に程近い場所に家を買い、そこでピアノ教室を開いた。


丁度その頃、あの日以来会っていなかった母から連絡が届いた。


全てを一度リセットした母は、今は知り合いの伝で小さな事務所の事務員をしているらしい。

久しぶりの電話越しの母の声は、昔とは違って随分と落ち着き、そして凄く幸せそうだった。


私も先生と結婚したことを告げると、母は電話越しに泣いていた。


それからはちょくちょく、母とは今も電話で連絡を取り合っている。


私は未だに先生の事を「先生」と呼んでいる。


先生は相変わらずニコニコしていて、私達の会話は昔から変わらず敬語のまま。


夫婦で敬語なんて変…と友人達は笑うけれど、これは多分、もう一生直らないだろう。


先生と出会ってから、気がつけばもう十数年。


長い長い時間をかけて、本当に大事な人と結ばれ日々を過ごしている今、私はふと自分の人生を振り返り、幸せを噛み締めている──。

< 87 / 88 >

この作品をシェア

pagetop