一秒の確信
塚本「だからぁ、いっつも言ってんじゃん。」

唯「だって、飲み足りないんだもん。」

塚本は溜息を吐きながら、それでもあたしの『我儘』に付き合ってくれる。
あたしは、どうして塚本の様に、お酒が強くなれないんだろ…
もっとあたしが強かったら、『塚本組』に打ち解けられる筈。
あたしは塚本みたいにはなれない。
到底、追い付けないんだろう。

塚本は寄って、あたしの首筋にキスをした。
それでも塚本は『酔ってからが』長い。
塚本は女。
解ってるとおり、恋愛対象の相手は当然オトコに決まってる。

塚本「ばぁか!お前、メンコイんだよっ。」

ほら、また塚本があたしがテレているのなんて全部、お見通しで。

塚本が愉しそうに『他の女の子』とも喋ってる。

塚本「皆飲んでるー?飲めない奴は要らないって知ってた?(笑)」

塚本組「いぇーい!!塚本あっての飲み会、塚本が居なかったら酒すすまなぁーい!」

あたしは周囲を見渡した。
塚本はまるでハーレムを作っているかの様に飲みコールの中で騒いでる。

此処は塚本が手を回している、ヤクザ絡みの違法BAR。
バーテンは勿論、塚本組の人間だけ。
だからあたし達は『未成年』でも飲酒が出来る。
サツには目の行き届かない雑居ビルの中の、ドアだけ一見サビれた様子で、フロアはまぁ洒落てる。

VIPルームで飲んでるカルアミルクがあたしを大人にさせようとする。

その時だった。
塚本がジントニックを片手にこっちへ向かって来た。

塚本「何飲んでんの?それ甘くない?色からして気持ち悪い感じ!」

唯「べ…別に。あの人…あの人の作るカルアが上手かったから。」

塚本「ふぅーん。あのバーテン結構ウマいからね。」

そう言ってジントニを片手に飲み干す塚本の横顔は綺麗だった。
塚本は煙草を取り出して、馴れた手つきで点火する。

唯「…塚本が吸ってるのって、それって…何てメーカー?」

塚本は驚いた顔であたしの顔を覗き込む。
と、同時に大袈裟に笑った。
あたしは何だか馬鹿にされた気がした。

塚本「唯!メーカーって!(笑)銘柄じゃなくって?うっはははははは!!」

馬鹿にされてる。
塚本は腹を抱えて笑ってる。
あたしもまけじとピンクの煙草ケースから取り出した。

唯「ボッ…ふう…ー」

塚本「あっれ?お前って、セッタ吸ってんの?ってかお前吸えるんだ?へー、皆、唯が煙草吸ってるって知ってた?」

塚本が大声でフロア中に響き渡るように、そしてバカにするみたいに言うんだ。

『塚本組』があたしを見る。

将「ああー、唯は煙草吸ってるもんねっ?お前セッタだもんねー?」

横目で塚本の煙草を見た。
あたしとは違う、メンソール。

塚本が吸う『クール』とあたしが吸う『セッタ』とは大違い。

だってあたしは、未だ吸えてない。
どうせカッコだけの飾りみたいなモン。

将があたしの頭を撫でる。
あたしはこんな弱い酒でグラグラきてる。
将の肩にもたれかかった。

ジントニ片手に口唇で煙を吐く塚本の視線を、一瞬感じた。
塚本は何故かあたしには、不機嫌そうに見えた。

真顔でも、いつも不機嫌そうだけどね、塚本って。

ねぇ、塚本は知ってる?
ちゃんと周りを見てる?
将って、どこか塚本と似てる空気を持ってるんだよ。
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