一秒の確信
あたしが酔っている事を良い事に、将はあたしの顔に近付けて、小声で言った。

将「唯はねー、セッタだもんね、俺と同じだもんね。」

その時だった。
VIPルームの短い階段をドンドンと足音を立てて昇ってくるのが聞こえた。
瓶の形をしたジーマとゆうお酒を片手に口唇に挟んだ煙草。
塚本は上口唇に比べて下口唇が厚い。
ちぎるみたいに、煙草をくわえた仕草が極めて、怖く見えた。

…あ…塚本―!!

その時だった。

塚本「おい!将?女なんていくらでも紹介してやんよ!だからそこの可愛い子チャンだけは触るな!」

塚本が将の胸グラを掴んで立たせる。

将「ちょっ…俺は何も…!!ってか何でそんなに苛立ってるの?塚本うるせぇよ。」

塚本「それがあたし。フッザけんなよ!カッコつけるな…!!」

バコーン。
フロア中に鳴り響く音。
塚本がキレても同様しない。

それが塚本の―陣地だ。

何事もなかったように、ジーマを持ってあたしの隣に座る。
将は頬を手でおさえたまんまでどっかに消えた。
あたしは、そんなのどーでも良かった。

塚本「…大丈夫?唯、将に何もされてない…?お前は俺のメンコ。」

呆れた顔で塚本は煙草を連続で立て続けに吸う。
人差し指でテーブルをカタカタ叩く音。
苛々してるんだ、きっと。

唯「あ…あたしは…別に…なんもされてないよ。」

塚本「マジ?」

―塚本の、長い指先が動きを止める。
あたしの背中をなぞる指先が

塚本――。

唯「あ、大丈夫。ちょ、やめなよ(笑)」

塚本「なんでー?」

笑ってる。
皆の居る前で、しかも、皆の視界に入らないように塚本はあたしの反応が面白いだとか言って、背中を触ったり、腰を触ったり、とにかく変な事ばかりしてくる。

―あたしは…
酒に酔ってたんじゃない。

これだ。
あたしは…

塚本が何か話そうとする。
あたしは其れを無視し、煙草をフカした。

塚本「ねぇ。唯…。あのさ…。」

怖かった、何故か。

唯「な…に?」

塚本「唯…?此処はどんな所か知ってる?…あたし…いや、俺…俺の関わってる全員は。」

塚本は黙った。
アルコールの入った瓶を持って立ち去ろうとした塚本の腕を捕まえる。

唯「あたし…!聞く。例えばどんな事でも。」

塚本は笑った。
だけど真剣な眼差しであたしを見て、その視線に、また、酔う。

塚本「そんな奴隷みたいな事言わないでや。まるで俺がお前に言わせてるみたいだろ?さっきね…いや…なんてーの。此処は唯が出入りするトコじゃないんだって思った。…あ、あたしらは…多分見放されてんだよ。…だから何も…棄てる覚悟で。…だから此処は心地好い。そう感じないとは幸せな事なんだ。結もいつか解る。解る前に来なければ良いなって。知らなければって。」

唯「じゃあ、塚本は、あたしを知ってる?」

塚本「多分ね、『俺達』は唯とは、全く違う…!その覚悟が出来たら、またあたしらとツルみな。…いい?」

待って
待って
待って―…!!

唯「塚本ぉ!あたし、全然、酔ってないからぁ!ナメてんじゃねーよ塚本!」

塚本「…ぁあ?飲めない酒飲んでんじゃねーよ。あたしの真似?ふっざけんな。」

唯「…何もいらない。」

塚本「…は……?」

唯「塚本とは解りあえると思った!!」

塚本「はぁ?何言ってんの、あんたやっぱ酔ってるわ。早く水持ってきてー!VIPルームチェイサー1個!!」

酔ってない。
全然。

塚本の残したキツイメンソールと、吸えもしないあたしのセッタを勝手に交換して、VIPルームに置いてあった『塚本組』の残したアルコールを片っ端から空けてやった。

チェイサーを持ってきた彼は、コレ誰の?って聞いたけど
あたしは堂々と、無視したわ。

一番驚いたのはそうね

塚本ね。
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