彼方の蒼
「そ、惣山くん?」

 内山のほうから声をかけてきた。
 つい声をかけてしまった、という感じ、まるわかり。

「うん。なんか、久しぶりだね」

 中学3年生にとっては、3日も4日も『久しぶり』の範疇だ。

 内山はとても小さい声でそうだね、と言った。
 うつむいて買い物かごを体の後ろにまわした。
 誰かにあげるチョコを選んでいるところだったようだ。

 だったら僕なんか無視してやりすごせばよかったのに。
 堀芝サンの友達にしては、要領悪すぎ。


 挨拶をしたきり会話は途絶え、僕まできまりが悪くなった。
 持っていたチョコを違うメーカーの並びに置いて、それじゃまた来週とかなんとか言って、店を出た。

「惣山くん」

 内山が店の外まで僕を追ってきた。買い物かごは店内に残してきたみたいだ。
「あの、明日は学校に来られるの?」

 また来週って言ったのに、と舌打ちしつつ、僕は答えた。
「月曜からだよ。じゃあな」 

 内山の目に怯えた気配があった。

 しまった。
 あんなことがあったあとなのに、威嚇してどうするんだ!

 振り返った場所にはもう、内山の姿はなかった。


   ◇   ◇   ◇ 

「せっかくシャバの空気を楽しんでいたのに、台無しにされたよ」

 家で母さんにさっきの出来事を愚痴った。ヤツはごはん粒を吹きだしやがった。

 言葉づかいが悪いって? 食事マナーが悪いよかマシだろ。

「きったねえな、やめてくれよ」
「その子、あんたが好きなんじゃないの」

 僕はいつもの要領で顔をしかめてしまい、そしたら傷が痛んで、さらにしかめ面になって、また痛んで……。
 頭の悪さゆえの、二次災害。

「もう一回言ってあげようか?」
「いいよ、聞こえた」
「そっけないのね」

 つまらない反応だ、とでも思っているんだろう。
 人のこと、おもちゃにしてるとしか考えられないね。

「仕事行けよ、仕事」
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