彼方の蒼
「男子校って、こんな感じなのかな」
 僕の言葉に、カンちゃんが頷いたようだ。

「絶対嫌だな。やっぱ女子がいたほうがいいだろう」
「隣のアルト女子と合流したいなあ」

 アルトでもテノールでもなんでもよかったんだけど、これじゃあアルトパートに用事があるみたいだ。


 言い直そうと思ったら、案の定、突っ込まれた。
「えっ。ハルトって、とうとう倉井先生を諦めたのか?」

「そんなんじゃないよ」
 僕は声のしたほうを見ずに答えた。
 委員長だ。

 どこが気に入ったのか知らないけど、あの勉強会からこっち、妙に僕に絡んでくる。
 何故かハルト呼ばわりしている。
 許可なんていらないけど、許可した憶えはないよと言いたくなる。
 受験ストレスでも、コンプレックスでもない。そんなイライラ。


「委員長、女子と一度合わせてみないかー? 男ばっかじゃベース音聞き続けてるみたいで、つまんねえよ。士気が下がる、士気が」
 カンちゃんの提案は、僕にとっては助け舟となった。つまり、委員長除けの。
 委員長はそれもそうだと頷いて、女子パートに交渉しにいった。


 結局パートがどうとかっていう次元じゃなく、日数の問題で、全員で体育館で合わせることとなった。
 いつもは伴奏ばかりの名ピアニスト内山も、今回は一曲歌わせてもらえるとかで嬉しそうだ。
 教室に掛けられた卒業式までのカウントダウン用日めくりカレンダーは、一枚また一枚と徐々に減っていった。


 僕は合唱練習に限らず、移動教室や帰り道なんかをカンちゃんと共に行動した。
 カンちゃんと喋っているときは、どういうわけか委員長もあんまり僕に話しかけてこない。
 あの委員長でも苦手意識があるのかと、僕は軽い驚きを憶えた。
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