彼方の蒼
   ◇   ◇   ◇ 

 卒業式の合唱練習が始まった。卒業生全員で歌うんだとか。
 そうだっけ、去年もあったっけ?
 いつの間にそういうことになったの? 
 なんて聞ける雰囲気はもう既になかった。

 練習時間は毎日、放課後に20分。
 2曲を2回ずつ歌うと、大体そのくらいになる。

 3年生の4つの教室からそれぞれ、ソプラノ・メゾソプラノ・アルト・男子の声が聞こえてくる。
 本当にそれぞれで、ときどき輪唱みたいに追いかけっこになる。
 女子の声のほうがよく通るけど、人数が人数だから、本気出した男子がたいてい勝つ。
 んでもって、音楽の近藤先生に、応援練習じゃないのよと叱られる。
 そんなこと言ったってさあ……。


「男は男でひとまとめ、ってのが気にくわね—な」
 壁にもたれたカンちゃんが、やる気なさそうに譜面を畳んだ。

 そうだよそうだ、そういうことなんだ。
 半分くらいの声量でね、なんて、近藤おばあちゃん先生に言われたら、従わないわけにはいかない。でも釈然としない。

 ムカムカを家まで持ち帰って、カンちゃんと通信カラオケでシャウトする日々。
 こっちのほうが断然上達しちゃって、卒業式後の打ち上げで披露しようぜなんて、気が早いんだか用意周到なんだかわからない約束をした。

 僕もカンちゃんと同じように、学生服を着た男子ばかりの教室をボンヤリと眺めていた。
 やたらと黒々としていて、見ているうちに息苦くなってくる。
 むさくるしいとはこのことだ。
 ひとつの教室には収まりきれない人数を、問答無用に押し込むとこうなる。
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