印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
5月18日 きょうは木曜。
マージー河が見える丘の上。ウールトンあたり。
「ウーモオオー」 牛の鳴き声で起こされた。

あーいい天気じゃん。 よう大将、起きようぜ。
「起きとるわ。何時や、5時か。腹へったな」
大将がメガネかけて、普通の顔に戻る。
夜露で湿った寝袋を、木の枝にかけて乾す。
昇りかけた朝日に向って、朝ションをぶっぱなす。
気持ちいいぜ、うっひっひ。
しかしきのうの坊主よ。すごかったな。
そやな。ついに俺等もリバプールの乞食になったな。
おーっはぁはぁはぁ。
ところで坊主等が言うとった風呂な、あれ行かへんか。
体ネトネトやん。
そうね。パブリックバスがどんなもんか見てえしな。
3分で荷作りして、丘を下る。
あそこじゃねえか? でかい建物はひとつしかねえ。
目指して歩くと、あった。パブリックバスだ、へえ。
バスって言ったって、湯船なんかはない。
西部劇のバーの入口みたいのが、ずらっと10基並んで、
天井の水道管に蜂の巣みてえなシャワーが付いてるだけ。
5p入れると、お湯が出るしくみだ。
こりゃ便利。 貧乏ハイカーにゃ助かるな。
どーら、誰も居ねえし、ゆっくり浴びるか。
と思ったら、5分で切れた。ちきしょう、あと5分やるか。
ん? 大将は?
野グソしてやがる。 便所があるのに変な奴。
すっぽんぽんで外に出て、朝日を見ながらタマキン握って
「よーっし!」
なんだかわからねえが、こういうときは気合が大事。
着替えて、軒下でコーラ飲んで一服。
「おーい、お前等何してんだ」 早朝に響く野太い声。
軽トラのおっさんが、車の中から窓ごしに声かけてきた。
ああ、心配ねえよ。俺等ヒッチでリバプール行くとこだ。
「おおそうか、風呂入ったんだろ? ここの自慢の
パブリックバスだ。労働者用で昔からあるんだ。」
おお、そうか。 気持ちよかったぜ。
「ところで日本人か?ホリデイか?」
そうだよ、日本人だよ。イギリスの文化を勉強中よ。
「よっしゃ、待ってろよ。 俺は日本人大好きだ」
おっさんだけかと思ったら、隣から女が降りてきた。
紙袋に何か詰め込んで、ニコニコしてこっちへ来る。
「ほい、これ持って行きなよ」
おお、なんと! バナナ、りんご、オレンジが袋一杯。
おお、こりゃありがてえ。
昨日の坊主といい、このおっさんといい、優しいのを
通り越して宗教掛かってる。立派。
ありがとございます。助かります。
「OK、気にすんな。リバプールまで乗せてやりたいが
これから市場だ。 途中まで乗れよ」
いや悪りいね。おっさんいい男だし、奥さんも綺麗だね。
「うっへっへ、お世辞言うなよ、がーっはっは」
30分くらい乗って、なんとかリバプール郊外まできた。
1時間ほど歩いて、市内に入ったがユースが見当たらない。
ヒッピー情報にも、リバプールのユースは載ってない。
ま、どこでもいい、泊ろうぜ。せっかくここまで来たんだ。
ペニーレーンやストロベリーフィールズ行って、
キャバーン行って飲んだくれて・・・な、大将。
「俺な、北行くわ」
大将は、ビートルズは知ってても、別にリバプールに
思い入れはねえ。
ま、いいか・・・付き合うかな。俺はいつでも来れる。
よし、じゃあ北行こ。 俺もいいかげんだ。
こうなりゃ最低、パブと土産だな。
じゃイキフンのいいパブでもさがして一杯やるべ。
曲がりくねった坂道の途中に、鉄製の看板「GLEN」
おっ、朝から開いてるじゃん、いいねいいね。
暗めの電気に、高めのカウンターと椅子。
グラスは棚からぶら下がり、メインはビールだな。
きつそうな黒のチョッキ着た、おっさんと客二人。
「おやじ、ビール2杯くれよ」 おやじニコッ。
サーバーからパイントグラスにビールを注ぐ。
「はいよ!ビール2丁」 よっしゃ、大将 乾杯だ。
リバプールの乞食にカンパーイ! 久しぶりのビールだ。
うえっ! なんだこりゃ。生温ったけえじゃねえか。
ロンドンでも冷えたのは割高だけど、パブじゃ、
ちゃんと冷えたの出したぜ。
おやじ、冷えたの出せ! 大将、マジだ。
「OK、怒んなよ。 お前等貧乏旅行だろ」
まあな、好き好んでやってんだけどさ。
「気きかして安いの出したんだ。冷えてんのは40ペンス」
ほう、これが30ペンスで冷えたら40かよ。
上等だ 冷えたの2本くれ!
大将はビール党。 ビールの為ならなんでもする。
スモークベーコンみたいなのが出た。
「食えよ、おごりだ」
なんだ、いいとこあるじゃん。 じゃ、もう2杯くれ。
おやじ、ところでリバプールの一番はなんだ?
「そりゃドックよ」
へえ、犬か?
大将、犬じゃねえ、港だ。
「あとは、やっぱりビートルズだな」
おお、そうだろ、それが聞きたかったのよ。
田舎のパブのおやじでも、ビートルズは町の誇りってわけだ。
そのビートルズの生まれ故郷に来たってえのに、素通り。
情けねえけど、まあ、またいつでも来れるしな。
そん時きゃ列車で来て泊って、とことん観てやる。
じゃあ おやじ、ごっそさん。
道端で、さっきもらったバナナとオレンジ食って一服。
さあ、目指すは北、湖水地方。
天気は上々。ぶらぶらと、ヒッチる幹線まで歩く。
石畳の坂の途中に、ちっこい「なんでも屋」がある。
よし、ここでなんか自分の記念になるやつでも買おう。
パイプのバックパック、欲しかったやつがある。4£。
ロンドンで8ポンドだったから、中古じゃまあまあか。
よし、おやじ、これくれ。
店先で荷物全部御開帳、パイプバッグに入れ替える。
おねえちゃん達が寄って来た。にたにた、きゃっきゃ。
いいね、どこでもおねえちゃんの笑い顔は最高。
はいよ! そん中で、一番マブイ娘に五円玉をやった。
「OOH!私にくれるの? ありがと」キャッキャ
五円玉一杯もってきた甲斐があった、へへ。
アメ横で買ったこのリュックは、もういらねえ。
おやじ、このリュック買ってくんねえかな。
冗談半分で言ったら、手ごたえあり。
「いいよ日本製か? 80ペンスだな」
いくらだっていいよ、おやじの心意気だよ。
ありがとさん。 言ってみるもんだ、っひっひ。
おねえちゃん達の視線と嬌声を浴びながら、荷造り。
パンツと下着は下、その上にセーター詰めて、一番上には
リンカーン用のテープレコーダー。
地図は右のポケット、飲み物は左側のポケット。
最後に寝袋しばりつけて完了。
さて、おやじさあ、俺等ケンダルまで行きてえんだ。
「じゃM6だな。この道30分くらい歩けばM6に出る。
あとは一本道だ。 4時間かかるよ」
ありがと、じゃあな。 おねえちゃん達、see you!
また大将と歩く。歩くと無口で競争する大将、まあいいか。
停まった! まだ幹線道路の前、助かった、ラッキー。
ん? おばさんひとりのトラックだ。
いいのかね。俺等、血気盛んな男二人だぜ。っへっへ。
窓開けたらわかった。
腕は俺より太い。体は80キロは超えるな。
この道20年、男にゃ負けねえって感じ。さすがだ。
「どこまで行くの?」
おっ、声は優しいね。
「ケンダル迄は行かないわ。いいとこで降ろすわね。
あなた達日本人でしょ。」
そうだよ、よくわかったね。
「ええ、私の友達がリバプールのレストランで日本人の
コックさん使ってるのよ。 結構はやってんの」
へえ、そうかそうか、なんかの縁だよなおばさん。
ありがと、助かったよ。
パーキングで降ろしてくれたんで、すぐに次の1台捕まえて
その場でヒッチ。
今度は老夫婦、何もしゃべらねえ。
義理で乗っけてやるって感じだけど、ありがとさん。
次は乗用車の兄ちゃんが停まった。
「俺も、お前等みたいに好きなように生きたいよ」
そうか、でもそうでもねえよ。ヒッチも結構大変なんだ。
まあ、労働者クラスじゃあ大変だよな。 ありがとさん。
三台乗ったが距離が延びねえ。
そんでまた、車が来ねえ。 しょうがねえ、歩くか。
4台通り過ぎたが、停まらねえ。もう7時だ、ヒッチは無理。
あぁ、きょうはどうすんだべ。 ま~た野宿か?
マージー河が見える丘の上。ウールトンあたり。
「ウーモオオー」 牛の鳴き声で起こされた。

あーいい天気じゃん。 よう大将、起きようぜ。
「起きとるわ。何時や、5時か。腹へったな」
大将がメガネかけて、普通の顔に戻る。
夜露で湿った寝袋を、木の枝にかけて乾す。
昇りかけた朝日に向って、朝ションをぶっぱなす。
気持ちいいぜ、うっひっひ。
しかしきのうの坊主よ。すごかったな。
そやな。ついに俺等もリバプールの乞食になったな。
おーっはぁはぁはぁ。
ところで坊主等が言うとった風呂な、あれ行かへんか。
体ネトネトやん。
そうね。パブリックバスがどんなもんか見てえしな。
3分で荷作りして、丘を下る。
あそこじゃねえか? でかい建物はひとつしかねえ。
目指して歩くと、あった。パブリックバスだ、へえ。
バスって言ったって、湯船なんかはない。
西部劇のバーの入口みたいのが、ずらっと10基並んで、
天井の水道管に蜂の巣みてえなシャワーが付いてるだけ。
5p入れると、お湯が出るしくみだ。
こりゃ便利。 貧乏ハイカーにゃ助かるな。
どーら、誰も居ねえし、ゆっくり浴びるか。
と思ったら、5分で切れた。ちきしょう、あと5分やるか。
ん? 大将は?
野グソしてやがる。 便所があるのに変な奴。
すっぽんぽんで外に出て、朝日を見ながらタマキン握って
「よーっし!」
なんだかわからねえが、こういうときは気合が大事。
着替えて、軒下でコーラ飲んで一服。
「おーい、お前等何してんだ」 早朝に響く野太い声。
軽トラのおっさんが、車の中から窓ごしに声かけてきた。
ああ、心配ねえよ。俺等ヒッチでリバプール行くとこだ。
「おおそうか、風呂入ったんだろ? ここの自慢の
パブリックバスだ。労働者用で昔からあるんだ。」
おお、そうか。 気持ちよかったぜ。
「ところで日本人か?ホリデイか?」
そうだよ、日本人だよ。イギリスの文化を勉強中よ。
「よっしゃ、待ってろよ。 俺は日本人大好きだ」
おっさんだけかと思ったら、隣から女が降りてきた。
紙袋に何か詰め込んで、ニコニコしてこっちへ来る。
「ほい、これ持って行きなよ」
おお、なんと! バナナ、りんご、オレンジが袋一杯。
おお、こりゃありがてえ。
昨日の坊主といい、このおっさんといい、優しいのを
通り越して宗教掛かってる。立派。
ありがとございます。助かります。
「OK、気にすんな。リバプールまで乗せてやりたいが
これから市場だ。 途中まで乗れよ」
いや悪りいね。おっさんいい男だし、奥さんも綺麗だね。
「うっへっへ、お世辞言うなよ、がーっはっは」
30分くらい乗って、なんとかリバプール郊外まできた。
1時間ほど歩いて、市内に入ったがユースが見当たらない。
ヒッピー情報にも、リバプールのユースは載ってない。
ま、どこでもいい、泊ろうぜ。せっかくここまで来たんだ。
ペニーレーンやストロベリーフィールズ行って、
キャバーン行って飲んだくれて・・・な、大将。
「俺な、北行くわ」
大将は、ビートルズは知ってても、別にリバプールに
思い入れはねえ。
ま、いいか・・・付き合うかな。俺はいつでも来れる。
よし、じゃあ北行こ。 俺もいいかげんだ。
こうなりゃ最低、パブと土産だな。
じゃイキフンのいいパブでもさがして一杯やるべ。
曲がりくねった坂道の途中に、鉄製の看板「GLEN」
おっ、朝から開いてるじゃん、いいねいいね。
暗めの電気に、高めのカウンターと椅子。
グラスは棚からぶら下がり、メインはビールだな。
きつそうな黒のチョッキ着た、おっさんと客二人。
「おやじ、ビール2杯くれよ」 おやじニコッ。
サーバーからパイントグラスにビールを注ぐ。
「はいよ!ビール2丁」 よっしゃ、大将 乾杯だ。
リバプールの乞食にカンパーイ! 久しぶりのビールだ。
うえっ! なんだこりゃ。生温ったけえじゃねえか。
ロンドンでも冷えたのは割高だけど、パブじゃ、
ちゃんと冷えたの出したぜ。
おやじ、冷えたの出せ! 大将、マジだ。
「OK、怒んなよ。 お前等貧乏旅行だろ」
まあな、好き好んでやってんだけどさ。
「気きかして安いの出したんだ。冷えてんのは40ペンス」
ほう、これが30ペンスで冷えたら40かよ。
上等だ 冷えたの2本くれ!
大将はビール党。 ビールの為ならなんでもする。
スモークベーコンみたいなのが出た。
「食えよ、おごりだ」
なんだ、いいとこあるじゃん。 じゃ、もう2杯くれ。
おやじ、ところでリバプールの一番はなんだ?
「そりゃドックよ」
へえ、犬か?
大将、犬じゃねえ、港だ。
「あとは、やっぱりビートルズだな」
おお、そうだろ、それが聞きたかったのよ。
田舎のパブのおやじでも、ビートルズは町の誇りってわけだ。
そのビートルズの生まれ故郷に来たってえのに、素通り。
情けねえけど、まあ、またいつでも来れるしな。
そん時きゃ列車で来て泊って、とことん観てやる。
じゃあ おやじ、ごっそさん。
道端で、さっきもらったバナナとオレンジ食って一服。
さあ、目指すは北、湖水地方。
天気は上々。ぶらぶらと、ヒッチる幹線まで歩く。
石畳の坂の途中に、ちっこい「なんでも屋」がある。
よし、ここでなんか自分の記念になるやつでも買おう。
パイプのバックパック、欲しかったやつがある。4£。
ロンドンで8ポンドだったから、中古じゃまあまあか。
よし、おやじ、これくれ。
店先で荷物全部御開帳、パイプバッグに入れ替える。
おねえちゃん達が寄って来た。にたにた、きゃっきゃ。
いいね、どこでもおねえちゃんの笑い顔は最高。
はいよ! そん中で、一番マブイ娘に五円玉をやった。
「OOH!私にくれるの? ありがと」キャッキャ
五円玉一杯もってきた甲斐があった、へへ。
アメ横で買ったこのリュックは、もういらねえ。
おやじ、このリュック買ってくんねえかな。
冗談半分で言ったら、手ごたえあり。
「いいよ日本製か? 80ペンスだな」
いくらだっていいよ、おやじの心意気だよ。
ありがとさん。 言ってみるもんだ、っひっひ。
おねえちゃん達の視線と嬌声を浴びながら、荷造り。
パンツと下着は下、その上にセーター詰めて、一番上には
リンカーン用のテープレコーダー。
地図は右のポケット、飲み物は左側のポケット。
最後に寝袋しばりつけて完了。
さて、おやじさあ、俺等ケンダルまで行きてえんだ。
「じゃM6だな。この道30分くらい歩けばM6に出る。
あとは一本道だ。 4時間かかるよ」
ありがと、じゃあな。 おねえちゃん達、see you!
また大将と歩く。歩くと無口で競争する大将、まあいいか。
停まった! まだ幹線道路の前、助かった、ラッキー。
ん? おばさんひとりのトラックだ。
いいのかね。俺等、血気盛んな男二人だぜ。っへっへ。
窓開けたらわかった。
腕は俺より太い。体は80キロは超えるな。
この道20年、男にゃ負けねえって感じ。さすがだ。
「どこまで行くの?」
おっ、声は優しいね。
「ケンダル迄は行かないわ。いいとこで降ろすわね。
あなた達日本人でしょ。」
そうだよ、よくわかったね。
「ええ、私の友達がリバプールのレストランで日本人の
コックさん使ってるのよ。 結構はやってんの」
へえ、そうかそうか、なんかの縁だよなおばさん。
ありがと、助かったよ。
パーキングで降ろしてくれたんで、すぐに次の1台捕まえて
その場でヒッチ。
今度は老夫婦、何もしゃべらねえ。
義理で乗っけてやるって感じだけど、ありがとさん。
次は乗用車の兄ちゃんが停まった。
「俺も、お前等みたいに好きなように生きたいよ」
そうか、でもそうでもねえよ。ヒッチも結構大変なんだ。
まあ、労働者クラスじゃあ大変だよな。 ありがとさん。
三台乗ったが距離が延びねえ。
そんでまた、車が来ねえ。 しょうがねえ、歩くか。
4台通り過ぎたが、停まらねえ。もう7時だ、ヒッチは無理。
あぁ、きょうはどうすんだべ。 ま~た野宿か?