印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年12月2日 夜9時過ぎ。
やっとアフガンのヘラート着。

ホテルシャーグの庭にバスが着いた。
情報にあった宿だが、ただの古びた体育館。
先発の車4人組も居たし、きょうはここで泊るか。

食堂に愛想のいい蒙古人オヤジ。でも気は抜けねえ。

ヒッピー情報「シャーグスペシャルを食え」

バスで何も食ってねえ。毒見する間もなく喰らいついた。
15アフガニは安い。段々物価の安い国に来てるって事。

夜、4人組の部屋で上物の草。ラジオからはシタール。
しかしすげえ1日だったぜ。っひっひ 

とりあえず生きてアフガン入った。ラリと疲れで爆睡zz。


12月3日 車4人組は朝出発した。自由でいいね。

カブール行きは明後日しかバスが出ない。
バスもホテルも、つるんで旅行者を足止めする。


 
ホテルの朝飯食って岡本と村に出る。

村の半分はバザール。屋台密集地帯。
まともな建物は銀行とドームだけ。
道は土、歩道は無い。家も土、窓は無い。

男はターバン、女は黒ベール。裸足の子供に乞食。 
イランよりさらにヒドイ。

おばちゃん達は物々交換。金使うのは旅行者だけ。

メロン16アフガニ、風邪気味だし買って帰ろ。

手製ブーツ400アフガニ。いい靴だ、でも金がねえ。

国境じゃ頭にきたが、村の印象は悪くねえ。物価も安い。
ホテルのおやじも、バザールの小僧も、人はいい。

ただ、貧しい。こりゃどうしようもねえ。


12月4日 風邪気味なんでホテル替える。
窓閉まらねえし、寒くてしょうがねえ。

ヒッピー情報「ヘラートはジャミホテルに泊まれ」 

リキシャに聞いてみる。

おやじ、ジャミホテルわかる?

「OKOK、まかせとけ」

「こいつ、だいじょぶかね」

岡本君、大当たり。2分で着いた。騙しやがったな。

「だってお前が乗りたいって言ったじゃねえか」って顔。

おやじ立派。俺等が悪い、ハイ20AF。笑うしかねえ。


昨日、シャーグホテルで散々ノミに食われた。
今度は20AFだし、だいじょぶだろ。

チェックインしたら、変わんねえ。部屋に鍵かかるだけ。

「虫には寝袋の中に新聞紙敷くといいよ」

知ってるよ。でもさ、その新聞紙がねえんだ。
ここじゃ新聞も雑誌も見たことねえよ。はっは


村の大通りは一本だけ。歩けば顔なじみヒッピーと会う。

「きょうは、ドル結構いいぞ」 

そう、最近は日によってレートが変わる。
いいときに替えねえと大損こく。闇屋で5ドル替えた。

1ドル55アフガニ。銀行じゃ52だ。

ヒッピー情報「両替したあとは気をつけろ」

誰もつけて来ねえか?

「うん、だいじょぶだ」 よし、飯食おう。


屋台は11時まではチャイだけ、ライスは出ない。 
30分待ってケバブ定食食ってホテル帰って昼寝。

喉痛え。雨は降らねえしこの埃だしな。

・・・あの靴欲しいな。おやじに切手売るか。
10円切手5枚と日本製ボールペンに、拾った女物の時計。
これでブーツと交換するかな。 

1件目、OK。セイコーが効いた。でも靴がでかすぎた。
2件目3件目も同じ。ちっきしょう、なんなんだ俺の足。
300出せばちょうど合う靴もある、でも金はねえ。

2日にアフガン入ってから16ドル両替した。
1ドルが55AF。チャイ2AF、飯12AF、
タバコ5AF、ホテル15AF、ケバブ8AF。
ここは1日2ドルありゃいける。

ヨーロッパ製エロ本は高値で売れるって? 早く言えよ。 
20ドルで売ったアメ公がいるって。失敗したー。

この辺のちょっとした逸品は、飛び出しナイフ。
土産品じゃねえ。モノホンの凶器武器。

バザールでズラッと並べて売ってる。
売れ筋は拳型のガード付飛び出しナイフ。

握るとちょうど拳形の鉄ガードがくる。
下を押せばナイフがスパッと出る。
これでやられたらまず終わり。顎は砕け喉は割かれる。ぐえ 

値段はピン切り。負けても80から200AF。
100のを1本買った。護身用。


12月5日7時 晴れ。もう2週間以上ずっと晴れ。
1日も雨無しだ。 ここは地球じゃねえのか。

埃がすげえ。喉痛え、目痛え、頭も腹も痛くなってくる。 

問題のカイバル峠どう越えるかだ。
ヒッピー情報は北周りはゲリラがやばい、南回りしかない。
でもこれもバスがやばい。どっちにしてもやばい。

岡本、どうする?

奴、風邪気味だし買い物したいから残るって。

まあそろそろ潮時か、じゃあ元気でな。

また一人になった。誰か相棒探したほうがいいいな。

俺も風邪気味だがアフガン早く出たいし、まだ8時だ。

よっし、きょう行くぞ。

アメ公誘って3人と俺。カブール行きに乗りこんだ。

 
定員3倍のバス。上等の草やりながら揺られて12時過ぎ。

着いたか?・・・なんだカンダハールじゃねえか。

カブールまで行かねえのか?

「行かねえよ。 きょうはここで泊まりだ」

うまくできてやがる。バスはホテルの庭に着く。
皆つるんでグルんなって金使わせやがる。あーあ

壊れた病院みてえな汚ったねえホテル。
ベッド無し、床に寝て15AF。まるで難民だ。
ちっきしょうー・・・でもバスよりゃいい、寝た。


12月6日朝6時 やっとカブールへ向かう。

ブタ箱バス、この臭いにゃ慣れねえ。腐ったゴミか雑巾の匂い。
おまけに風邪だ、ブエーックション チッキショー。

これがカイバル峠の南回りか。峠っていうほどのどかじゃねえ。
景色は黒い荒野に台形の岩山の連続。人が住むとこじゃねえ。
まるで十戒の映画並み、でも奇跡は起きねえ。


アメ公「見ろ! あれを見ろ」 ええ?なんだよ 
スーパーマンじゃあるめえし。

双眼鏡もらって覗いた。

・・ん? なにい!うおお!やっべえぞ

岩山の山頂に丸く列になってる。ありゃカラスじゃねえぞ。

おい!ゲリラだ、ゲリラ。

銃構えてんぞ。こっち狙ってんじゃねえか。
100人は居るぞ。ヤバイぞ、おお おい!

カナ公が「運転手に見せる」って双眼鏡を渡す。

運転手「わかってる、知ってる。静かにしろ」

なに? バッカヤローどうすんだ、殺られんぞ、やばいぞ。

「だいじょぶ。撃ちはしない」 

なんだてめえ、なんでわかんだ、保証できんのか。
どうすんだよ!どうすんだヴァッキヤロー!

ターバンおやじが立ち上がった。村長風で白髪。

「あいつ等は撃たない。心配ない。 敵は違う。 
このバスは狙わない」

・・・そういや20分経ったけど、銃声はしねえな。
・・大丈夫かもしれねえ。

じゃあよ、奴らの敵は誰よ、何狙ってんだ。頼むぜ。


ゲリラの山が遠のいた・・まだ心臓が鳴ってる。

なーにが、どこでもあなたの身の安全を保証するだ。
外務省、出てこいこのやろー・・・しっかし冷や汗かいた。

夜5時過ぎカブール着。 やっとだ、長かったあ。
ホントにゲリラ出るとはな、噂ホントだった。恐っそろし。


ここも埃臭え町。バスが停まるの待ってポン引きが動く。
荷馬車の上で寝転んで一服してたポン引き共が一斉に集まる。
ひともめしたがもう疲れた。

グリーンホテルだって言ってんのに、他に連れてかれた。 
もうどうでもいい、寝たい。風邪薬飲んですぐ寝た。

しかしやばかった・・・でも生きてた、よかった。


12月7日 今日も晴れ。もう20日も晴れっぱなしだぞ。
天気も異常。人も常識も全部異常だあー。
早く出たい、出る時、出れば、出るぞー

グリーンホテル探して外に出た。 いけねえ、金曜だった。 
インド大使館は開いてたんでビザ申請して早々にホテル帰る。

車組4人にも会わねえし、もう寝るか。
体痛い、喉痛い、目痛い、頭痛い、もう最悪だ。


12月8日 朝方寒くて目が覚めた。喉ヒリヒリする。 
咳が止まらねえ。風邪だな、たちの悪い中近東風邪だ。

宿には日本人は俺だけ。同室にはラリパッパのアメ公とカナ公。
こりゃさすがに心細い。自力で治さなきゃ。

アメ公「だいじょぶか?飯食いに行くか」 

そうだな。腹減ってねえけど、食わなきゃな。
それに、申請したビザも取りに行かなきゃ。

毛布体に巻きつけて飯屋へ行く。フラフラする。

ケバブ半分残して、インド大使館行って1時間半待たされた。
ビザはもらったが震えが止まらねえ。やばいぞ、こりゃやばい。

夜、スイカ一口食って寝た。 まいった・・・


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