印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1974年1月18日 5時頃寒くて目が覚めた。
寝袋売っぱらっちまったしな。 しょうがねえか。
 
誰も居ない庭に出ると、雪のヒマラヤに朝焼けが。
 
くーっ!すげえ。この薄紫の空気、鳥のさえずり。

俺等が勝手に貧しいとか言えねえ。ここはここなんだ。
日本より幸せかも知れねえ。

たった5日だったけどいい国だった。ありがと。



おい起きろよ、きょうは出発だぞ。
水谷もF君もメガネも起きて来て庭で一服。

「カトマンズ最後か。なんか寂しいな」皆同じ想いだ。

Tチェックとパスポート首からぶら下げて、布袋にタブラと
荷物入れて、毛布紐で結えて現金は財布と靴底に分けて完了。

チェックアウト5泊で15rp。安い。

アメ公カナ公オランダ、ドイチェ、みんなまたどっかで
逢おうぜ。元気でな。 ピースピース バイバーイ。



ハングリーアイでバフライス食って熱いチャイを飲む。

そんで、世界中からのヒッピーが書き入れた雑記帳に
俺も足跡を書き残す。

「イスタンからインドまで死なずに来た。ゴアとカトマンズ、
最高だった。金貯めてぜーったいまた来るぞ。 世話んなった
みんな ありがとさーん」 

おやじにも随分世話んなった、ありがとな。
何にも食わねえで入りびたって、タダのチャイ飲んでさ。

おやじ、ネパール語でなんか言ってる。
わかんねえけど顔でわかる。

グッドラック。ありがとな。客が減るさみしさもあるよな・・。


さあ、行くか。

F君「俺、ポカラ行くわ。も少しネパール見てみたい」

ハマったな。無理もねえ、こんなすげえとこはねえ。
お前金あるしな。でも気をつけろよ、死ぬなよ。

お互いにな。じゃ俺等は行くぜ。

F君がタクシー拾って見送ってくれた。元気でな。


カトマンズ ドメスティック専用空港へ向う。
ヒマラヤ、ストーパもテンプルも見納めだ。30分で着いた。
  
飛行場だか運動場だか、犬がうろうろ鳥は鳴く。 
事務所の横にベニヤのプラカードに「8時40分チェックイン」
て書いてある。滑走路もねえし、だいじょぶか。

今8時45分。誰も居ねえ。
 
屋台で1杯2.5ルピーの高いチャイ飲んで、時間つぶし。
ほんと飛ぶのかね。 ほっほっほ

9時半。やっと税関員が二人来た。
タバコ吸って頭とかしてグズグズ仕事。役人はどこも同じだ。

 
10時に税関抜けて飛行機待ち。芝生で一服。
 
「おいあれかよ!あれだろ。あれ1機しかねえ。ヤバイよ」 

草ぼうぼうの奥から、尾翼引きずって飛行機らしきもんが来た。
ぐえ、44人乗りプロペラ機。おもちゃだ。これじゃ鳩のが速い。 

11時。 1時間遅れで出発。

「おい、ここまで来て死ぬのはやだよ」 

もっのすっげえ音と揺れで離陸。乗客皆、窓の外見ながら無言。

アメ公夫婦、カナ公3人、村長風のネパール人数人と
軍服姿が数人。勿論、スチュワーデスなんか居ねえ

バリバリバリバリ!!

クロガネ三輪並みの音で、羽はちぎれそうだぞ。
南無阿弥陀仏・・・もう念仏しかねえ・・


30分。ドーン キーッ止まった。陸か、着いたか、不時着か。



おお、着いたパトナだ。フーっ生きてた。
 

パトナは小さい町。ヒマラヤは遠くになった。

またバクシーシのガキ共に悩まされるな。

土道の両脇には屋台が並ぶ。リキシャで鉄道駅まで2rp。
駅は混んでる。コンセッションで並ぶ。やっぱり列車は遅れてる。

「しかしインド入ると全然違うな。カトマンズ天国だったよな」 

ほんとそうだな。インドはなにか違う。
中近東でもねえアジアでもねえ。インドはインド。
俺等の常識、一回ぜーんぶ捨てなきゃインドは解んねえ。

百年かかるぜ・・・あっはっは


6時の列車が8時に来た。

蒸気の湯気たてて暗い駅に真黒な鉄。
線路脇に座り込んでた奴等が一斉に立つ。

背広組はちょっとだけ、ほとんど乞食。
お前等ほんとにチケット持ってんのかよ。
まともに切符買って乗るのばからしくなるぞ。

列車は例によって豚箱ハチの巣状態。
窓は開かない閉まらない、狭い臭い寒いの三拍子。

俺等三人、アーミー車両に潜り込んで荷物枕に床に寝る。
線路の振動、油臭え。これで最後だインド地獄列車。ぐええ


夜中、靴の音で目が覚めた。
駅でもねえのに軍人が一斉に乗ってきた。

俺等を睨んでる。 ガタイのいいのが言った。

「おい!お前等なにしてるんだ」
 
はい。僕等はカルカッタまで行きます。
軍隊を研究している日本の真面目な学生です。
インドの兵隊さんに会いたくてここに乗りました。
握手してください。わー光栄です。

っひっひ、んなわきゃねえ。嘘も方便。

「俺達は海軍だ。軍隊で一番偉い。おれの名前は・・」

髭将校さんの話に10分も付き合ったら、ドア開けて入れって。

しめた。兵隊の荷物どけて、椅子に座れって。

へへ、うまくいった。

1時間も止まりやがって、なんか基地でもあるんだろな。
なんでもいいか。

「君達はいくつかね 日本は兵役は・・」 

23です。日本は兵役はありません・・・眠いです。
一晩中、髭将校の話付き合わされた。冗談じゃねえzzz


1月19日 6時。
兵隊はもう起きてやがる。髭将校がマルボロくれた。
チャイもどうぞって。意外と気前がいい、兵隊さん金持ってる。

9時。2時間遅れでカルカッタに着いた。
兵隊に敬礼!バイバイ。


あー、やっと着いたぜカルカッタ。でも軽くはなかった。

天気はいい。 駅前公園で日向ぼっこ、暖ったかい。

洋服のねえちゃん、背広のおっさん、結構な都会だ。

椰子並木をダルハウス広場まで歩く。町はモダン。

ふたりはチケット予約でビューローへ行った。 
エアインディアで23日のバンコク行きだって。
 
俺はビルマエアーでリコンファーム。
あの小笠原ねえちゃんの書類見せてやった。

「わかりました。ではラングーンへテレックス打って
確認するので月曜午前に来てください」 

きょうは土曜か。事務所だけはヨーロッパ式か。  
ふたりは23日チケット取れたって。よかったね。
 

じゃ宿探しだな。 ヒッピー情報ノートを見る。
「カルカッタはサルベーションアーミーかモダンロッジへ行け」 

サルベーション行ったら満員。それにひとり9ルピー。バカ高。

結局モダンロッジにした。1人6ルピー、シャワー無し。

壁は剥がれ落ち、病室並みのベッドだけ。
まあ、コンクリだからノミは居ねえだろ。
ヘビでもいたらお手上げだけど。ヒヒ


腹へった。2階の共同食堂に日本人が3人居た。
日本からの直行の新米ヒッピー、4日目だって。
俺等のナリ見て声掛けてきた。

「へえ、トルコから入ったんですか。うち等これからインドです。
どうですか、インド。すごいって聞いてるけど」

「・・セブンスターどうぞ」
 
おお、悪いな。インドは最高最低さ。言いようがねえよ。 
てめえの目で見て触って匂いかいでさ、他人の感想なんか
あてにしねえほうがいい。

じゃあ、ヒッピー情報ノートやるから写せよ。さあ飯行こう。 

路地入ったらいつものインドの光景。

ションベン臭え入口はススで真っ黒。食い物出す店じゃねえ。
まずくて辛くて水っぽいカレーとチャパティで5ルピー。腹たつ。

 
銀行でレート確認。最近両替率がちょっといい。
キャッシュで1ドル7.9rp。チェックで8.1rp。
 
あとは売れるもんヤッケと毛布だけか。
バンコクじゃ必要ねえし、ここで売ってくかな。

屋台でガラスケースに入れて日本タバコを売ってる。
ロンピー5rp、ハイライト8rp、チェリー7rp。

ちゃんとした20本入りだが、ホテル一泊より高いタバコ。
ぼったくりだ。 俺ご愛用のビリーは10本2rp。
ひっひ、エコーの十分のいち。

広い公園。土地はあり余ってる。空は青い。
 
それにしてもアテネから2カ月か・・・よお来たわい。


晩飯は屋台でサトウキビジュース氷入り1rpとチャパティだけ。
甘いもん飲んだら腹減らねえ。
 
夜、体が痒い。 列車でノミにやられた。

バケツ一杯50パイサのお湯買って体洗って寝た。 
あああ、もうインドはいらんどー か~



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