兄貴がミカエルになるとき
トオ兄がこの日、この場所を通ったのは、モンモンにとってラッキーだった。
もしそのまま数日放置されていたら、生まれて間もない子犬だったモンモンは、
寒さと飢えで数日ともたずに箱の中でひっそり犬生を終えていただろう。
トオ兄は人には大して興味を持たないが、その分人間以外の生き物に対する愛情は強い。
財布でも携帯でも、人の落し物には目がいかないくせに、
公園や道端にダンボールが置いてあるとまず子猫か子犬じゃなかろうかと考えて必ず中身を確かめる。
というわけで、雨降るなか、他の人なら見過ごすような桜の木の根元のダンボール箱に気付いて蓋を開け、
中で震えていた子犬を迷わずジャケットの胸の中にくるんで連れ帰ってきたというわけだ。
トオ兄曰く、ラッキーだったのはモンモンに出会えた自分で、
「きっとモンモンに出会うために、俺は雨の多摩川に導かれたに違いない」
そう言って子供のように喜んでいた。
『モンモン』という名は、トオ兄が「悶絶するほど可愛い」からと、
悶絶の「モン」を二乗して名付けられた。
だから漢字で書くと『悶悶』
まったくセンスがない。
「とても可愛いから」と付けた名前は、実はとても可愛くない。
でも名前はともかく、確かにモンモンは可愛らしい。