兄貴がミカエルになるとき
「ただいま」、と声をかけ、買ってきた黄金プリンをトオ兄に一つ差し出した。

トオ兄はモンモンの胴体を落ちないように右手で支え、「お! 黄金じゃん」と、
普段あまり見せないランクAの笑顔を浮かべて体を起こした。

それにしても、トオ兄は忙しい割にはいつも家にいる。

「大学は?」

「教授がインフルのため、午後は休講なり」

ペリペリと音を響かせ、黄金プリンのビニールの蓋がトオ兄の長い指でめくられていく。

「スプーンがない」

「エコのため、もらってこなかった」

「持ってきてよ」

私は素直にキッチンにスプーンを2本取りに行き、トオ兄に1本渡して、正面のソファに座る。

モンモンはトオ兄の膝に前脚をかけて、プリンの匂いをふんふん嗅いでいる。

黒い鼻が徐々にカップに吸い寄せられていく。


「そのプリンを買うまでに、また『でかい』って言われちゃった」

「コンビニで? 気にするな。自分で気にするほどでかくはない」

「中2で175センチあるって、気にするほどでかいと思うけど」

「日本人の身長が低いだけだ。世界的に考えれば全然でかくない。
オランダ人の平均身長は女性でも180センチを超えている」

そう言って私を見る瞳は茶色がかっていて、少し薄めの唇は一見冷たそうだけど、その唇がわずかにほころぶと、一瞬にして冬から春へと季節がめぐったかのように温かくなる。

このギャップを目の当たりにして、心惹かれない女性はまずいないだろう。

顔良し、頭良し、その上まったくどうでもいいことまでよく知っている。

性格はさておき、自分の兄ながら、こんな揃った男はそうそういないだろうと考える。

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