兄貴がミカエルになるとき
食事が終わり、コーヒーを飲んだところでリチャードは仕事が残っているからと先に去ってしまった。

じゃあまた、と席をたったリチャードに、ママと由美子さんは「ごちそうさま」と笑顔できれいにハモることを忘れなかった。

それにしても、と思う。

それにしても由美子さんとママの会話は、これが40代の大人の女性の会話かと思うほどあっちゃこっちゃに話題が飛びまくり、あらぬ方向に、無差別に、無制限に広がっていく。

「やっぱり嵐はニノよね」「何言っちゃってるのよー、やっぱり大野君じゃないのお」「ええええええ。ところでさ、東野圭吾の新刊読んだ?」「読んだわよー。面白かったわあ、一気に読んだわさ」「これさ、ドラマにしたらいいと思わない? 主人公は松田龍平。どうよ?」「松田龍平って言えば、今出ているドラマ、いいわよねえ。面白い。あ、ニューヨークでも見られるのかしら」「あったりまえよ、新しいアイパッドちゃんでちゃんと見てるわよ」「ねえ、話変わるけど、あんた韓流とか見てる?」「見てない。興味ないもん」「あら、主婦のあいだで、韓流ドラマの人気、すごいのよお」「主婦の間で、ってあんた主婦との交流もないくせに誰から聞いたのよ」「学生時代の子供のいる友達が言ってた。それよりさ……」

「それよりさ」とか「そういえばさ」とか、「話変わるけど」とかいう接続語を入れながら、よくもまあ、こんなに脈絡のない内容で会話が続くもんだと関心してしまう。
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