兄貴がミカエルになるとき
「じゃあ、咲季も連れていってあげて」

最初の私の言葉をママもスルーしてトオ兄に言う。

げっ。それじゃあ第三キャンプ場から前線に移動させられるようなものじゃない。

だいたい、どうして高校生の私がニューヨークに着いたその晩に、ゲイバーまで付き合わなきゃいけないんだか。

それも遊びに連れてきてもらったわけではない。

春休みを利用して、こっそり勤労しに来ているのだ。

一応は顔や体を見せる仕事だし、ストレスは禁物だ。

と、頭の中で強く反論しながら、引き続き丁寧な口調でこの場を逃げようと試みた。

「いえ、私は結構です。まだ、未成年ですし仕事のためにもそろそろ戻って早めに休みたいので、先にホテルに戻ることにしようかと……」

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