兄貴がミカエルになるとき

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ニューヨークには、ファッション雑誌の撮影とシェリルのショーに出るために七日間滞在した。

撮影にはどうにか慣れてきて、洋服から感じるイメージやエネルギーを表現できるようになった。

けれどショーは初めての体験だ。

シェリルのミューズなどと騒がれてしまった自分が初めて生身の自分を披露するのだ。

今回は入場百人限定のリミテッドなショーだ。

招待状も本当に百枚しか送られなかった。

にもかかわらず話がもれにもれ、新作への期待よりも「生シャイラ」を見たいという千人以上のファッション関係者およびマスコミから入場への問い合わせが殺到して大変だったと、シェリルの敏腕女性広報担当者が興奮気味に話していた。

なので急遽1日だったショーの予定は3日間に延長されることになり、シェリル側もモデルやスタッフたちも、皆がワンオクターブ高い高揚感に包まれて、その空気が大きなプレッシャーとなってガツンと私にのしかかってきた。

楽屋ではメイクが施されたあと衣装を着せられ、細かいフィッティングも同時に行われる。

モデルごとについているヘアメイクと衣装係、デザイナーやアシスタントがものすごい速さで立ち居振る舞い、作業を進め、ステージとは打って変わって殺気立った慌ただしさだった。

そのテンパった雰囲気にのまれ、すでに準備が終わってランウエイまでに時間があった私は、平静を装いながらも心臓はものすごい勢いでばくばくと音を響かせていた。

脳貧血をおこしそうなほど緊張していた私のそばでトオ兄が「大丈夫だ。お前は紗季じゃなくてシャイラだ。何をやっても伝説のシャイラスタイルが出来上がるから、何も気にすることはない」と、耳元で念じてくれた。
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