兄貴がミカエルになるとき
周囲にいる他のモデルたちは、私のことより楽屋入りを許されている謎の男、やたら男前のトオ兄に気を削がれていたが、そんな余裕があるのは流石だ。

私といえば出番が来るまで胸を打ち付ける大きな鼓動に押しつぶされそうになりながら、「ナムアミダナムアミダ」と唱えてトオ兄の手を握っているのが精いっぱいだった。

「オッケー、シャイラ。イッツ・ショータイム!」

背中をトンと軽く押されてステージへと踏み出した。

初めてのランウエイ。客席からはシャイラを品定めするかのようなたくさんの瞳が私を見つめている。

カメラのシャッター音とフラッシュの中、私はシャイラになって歩き、ポーズをとる。見られることの緊張が、これまで感じたことのない興奮と高揚感へと徐々に変化していった。


咲季からシャイラに変わり、彼女の波動がステージを包んでいくのが見えた気がした。

私であって私でないシャイラ―――だれよりも自信に満ち溢れ、人を惹きつけ、そしてそれを細胞の糧にして微笑むシャイラ。

今回私に用意された衣装は4着。

アバンギャルド、フェミニン、クール、シック、それぞれの洋服が奏でるメロディー体で感じ、表現していく。

最後はシェリルのおじさん〈社長〉と一緒に大歓声とスタンディングオベイション、カメラのシャッター音とフラッシュを浴びながらランウエイを歩いた。

シェリルのおじさん(社長)は大喜びでフィナーレでのステージ上で私を抱きしめ、何度もほっぺったにキスをした。
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