兄貴がミカエルになるとき
「もういいよ。英語もできないし、一度会っただけでそばにいるケイトさんには勝てないよ」

「一度しか会ってないからいいんじゃないか。人間は誰だって新しいものが好きなんだ。大好きだけど、毎日食べ慣れているメロンよりも、初めて食べるマンゴスティンに心惹かれる。それがめったに食べられなければなおさらだ。興味と好奇心、新しい出会いほどワクワクすることはないだろ?」

自分が蒔いた種だという責任感からか自責からか、トオ兄がやけに押してくる。

それを受けてママが突っ込む。

「だから世の多くの男は不倫に走るのね」

下からトオ兄を見上げる瞳がちょっと怖い。

「男だけじゃないと思うけど……」

「なんか嫌な感じ。私はメロンにもマンゴスティンにもなりたくないわ」

ボトルから自分のグラスにだけワインを注ぎ、「トオルがそんな不埒な男だったなんてがっかりだわ」と、ママが冷たい視線を送った。

「だいたいさ、あなた女性の気持ちを本気で考えたことある?」

ママの話の矛先は、確実にトオ兄へと方向転換していた。

「女性の気持ちがわからないトオルにメロンだとかマンゴスティンの話をされてもねえ」


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