兄貴がミカエルになるとき
冬休みに入る前に、三品君とまたサンマルクでお茶を飲んだ。

前回会った時にはトオ兄の話ばかりで終わり、私たちの距離は知り合ってから大して変わっていないはずなのに、2回目のサンマルクでは、「今度一緒にプラネタリウムに行こうよ」とか「スキーをしにうちの別荘に遊びに来てよ」とか、「映画見に行こうよ」とか、その距離感がわからなくなるほどに気安く、そして自然にいろんな誘いを振ってくる。

私たちってそんなにも仲が良かったんだね、と錯覚を覚えるほどだ。

同い年の男子にありがちな緊張感など、三品君は全く感じてないようだ。

それがお坊ちゃまという家庭環境による影響なのか、ただの性格なのかは知らないけれど、友達の門をくぐった後は、「一緒にいよう」とさらりと言う。

その言葉がどれくらいの深さを持って発せられたものなのかはわからない。

戸惑うけど嫌じゃない。

けれど、ときめくほどの意味合いもおびていない。

つい「いいよ」、と答えてしまいそうな軽さを上手に乗せている。

だけど幸か不幸か、冬休みはそうした誘いに惑えるような余裕がない。

三品君には年末ぎりぎりまで家族で旅行に行くからと言い訳をして、すべての誘いを断った。
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