兄貴がミカエルになるとき
「ママ、きっとトオルは自分の気持ちにずいぶん前から気付いているはずだよ」

「知っているわ。なのにグズグズしいているから、さらに呪文をかけたのよ」

ハハハ、だよな、と楽しそうにパパがママに笑いかける。

「トオル、4年もかけてまだ考えるのか。まさか大学院にも行かない、なんていうんじゃないだろうな。M社の社長が留学の費用はすべて持つそうだよ」

4年? 一体何のことだかわからない。

私だけが話の筋が見えずに置いてけぼりだ。

モンモンの半タレの柔らかい耳を伸ばしたり折り曲げたりして弄んでいたトオ兄は、額にたれた髪をかきあげたその手で頬杖をつき、パパとママを交互に見ながらフゥと一つ息を吐いた。

その息がモンモンの耳をかすり、モンモンはトオ兄の顔を不思議そうに見上げる。
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