兄貴がミカエルになるとき
「だって近所だし」

またビューと風が頬をなぶる。

寒さにうぅーと呻きながら腕を組んで体を縮め、一瞬立ち止まる。

「しょうがない、半分貸してやる」

トオ兄が私の肩を抱いて、マントのような大きなコートのなかに包んでくれた。

シェリルの社長からプレゼントされたカシミヤのコートはとても軽くて柔らかかった。

男ものにしてはゆるやかなラインのロングコートはちょっと間違えばショーパブお姉系、もしくはホスト系、またもやただのだらしないコートになりそうで、着こなすのは難しい。

けれどトオ兄は189センチの長身にさりげなくコートをはおり、ラインによって作り出されるエレガントな美しさを存分に引き出している。

シェリルの社長がトオ兄に会うたび、モデルになれと言い寄るのも納得だ。

首に触れるカシミヤのなめらかな感触と、肩を抱くトオ兄の手のひらの暖かさ。

いつの間にか兄妹というには微妙な位置にいるお互いの存在を感じながら、それでも兄妹としての距離を保っている。

「トオ兄、昨日パパが言ってた“4年もかけて”、ってどう言う意味?」

「まだ言えない。春になったら教えてやるよ」

そのとき、私の肩を抱くトオ兄の手に少し力が入った気がした。
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