兄貴がミカエルになるとき

最終章

3月。

春休みに入り、明日からはまた撮影でニューヨークだ。

どういうわけか海外に行く前日は、必ずトオ兄に夜のコンビニに誘われる。

特に意味はないけど、非日常的な事項の前にはなんだか行きたくなるそうだ。

これといった買い物の目的があるわけではなく、ぶらぶらしたい気持ちになるらしい。

昨年末の奇妙な家族会議のあと、トオ兄にこれといった変化は見られない。

「覚悟しておけ」と言われてビビリながらも、何かを期待して私の心はわずかに波立ち、浮き立っていた。

それはただ新しい刺激にちょっとだけ手を伸ばして触れてみたい、そんな好奇心からで、触れるだけでいい、触れて手に負えなかったら手を引っ込めてしまえばいい、そんなふわふわとした好奇心だった。

けれど波打ってゆらゆら揺れているのは私の気持ちだけで、あれだけ波紋を投げかけたママもパパもトオ兄も、その話題には何も触れない。

私だけがママの呪文に絡め取られている。
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