兄貴がミカエルになるとき
そして答えた瞬間にトオ兄の笑みがさっと引き、しまったと思ったが遅かった。

「あーよかった。実はどうするもこうするも、シェリル以外にケルメス、バルバリーからも契約の話が事務所から入ったからOKて答えちゃったんだよね。

あ、あとファッション雑誌のカバーが何本か」

「えっ、ええええ! どういうこと?」

やはり裏があったか。物心ついてから何度この手に引っかかってきたことか。なぜ妹なのに兄の魅惑の笑みにすぐに引っ掛かってしまうのか、私は深く自省する。

「どういうことって、そういうことだよ。でさ、IMEモデルの本部から契約書が送られてきたからちょうどママに聞いてサインしようか思ってたとこ」

いやいや、ママに聞く前に私に聞いて欲しいし、聞いてくれるべきだろう。

「トオル、それは本当なの?」

怪訝な表情をクールビューティと言われる涼やかな顔に浮かべて、ママは持っていたカップをコトリとテーブルに置いた。

その不愉快そうな様子を味方に付け、「勝手なことしないでよ」と抗議をしようとした瞬間、「ケルメスにバルバリーなんてすごいじゃない! トオル、なんでそんなすごい話、早く教えてくれないのよ。もぉ、トオルったら!」

ママがはしゃいでトオ兄の肩を小突いた。

そしてそこがポイントかよ、と呆れているうちに、家族会議は終了となった。
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