聖魔の想い人
「家、は、どこにあるんだ?」

「え?」

「さっき…洞窟で、ルアンに"帰る"って…」

「あぁ…」

鋭い子だ。タリアは苦笑する。

「ルアンに帰る」ということは「ルアンに家がある」ということと同意語だ。普通なら聞き流してしまうその言葉の意味に、ラファルは気付いていたのだ。

「ここから更に二十キリア(二十キロ)くらい行った、林の中さ。…最も、私の家ではないけれどね」

「自分の家、では、ないのか…」


所々、言葉をひっかけながらもラファルはタリアに話しかけてくる。タリアはそれを迷惑がるでも、かといって積極的に受けるでもなく答えた。

「幼馴染みの家なんだ。私の家は、もうないからね」

「……そう」

ラファルは言って、それ以上何も話さずうつむいてしまう。どうしたのかと思ってみれば、欠伸を隠すためだったらしい。ふぁ…と口元に手をあてて、欠伸をしている。

そう言えば、洞窟でタリアが眠っている間も、ラファルは全くと言っていい程眠らなかったようだ。

休んでいた時間だって、年中周囲を警戒し眠らない時もあるタリアにとっては普通でも、野宿をしたこともないような子供にとっては、休憩のきの字も出ないくらい短いものだったろう。よく今まで音をあげずについてきたものだ。
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