聖魔の想い人
「どうだい?」

自分も一口食べながら、タリアは訊いた。

「………甘くない」

「ん?」

「前に食べたものは、甘すぎて嫌だと思った。…でもこれなら食べられる」

少し表情を和らげて、ラファルは美味しそうに饅頭を食べ始める。一方タリアは、今のラファルの発言に顔をしかめていた。

平民には、砂糖などという高価なものは買えないのだ。砂糖はたいてい身分の高い貴族や、王族が買い占めてしまう。そんな中、甘すぎる饅頭を食べたということは、砂糖をふんだんに使える程身分の高い家の子、ということになる。


……やれやれ、とんだ子を助けちまったみたいだね。


砂糖が全く使われていない、平民が一度は砂糖入りの饅頭を食べたいといいながら食べる饅頭を、美味しそうに食べるラファルを横目で見て、タリアは小さくため息をついた。

かといって、今ここで放り出す気にはなれない。タリアは、自分自身や周囲に危険が及ぶとなれば繋がりを切って捨てることもあるが、こんな小さな子をひとりで放り出すことをするまで冷酷ではないつもりだ。

いつだったか、「お前は冷酷なんじゃなくて、強がっているだけだよ」と言われたことがある。

確かに、そうなのかもしれないな。強がっているだけなのかもしれない。

タリアがそんなことを考えていると、ラファルが意を決したように話しかけてきた。
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