西山くんが不機嫌な理由
時計に目をやると、昼休みが始まってまだそんなに時間は経っていない。
先程真由美達と一緒に居たのは、わずか5分程度だったらしい。
それを言うなら、山城くんの方が時間をとっているともいえるな。
「西山くんお腹空いてるよね!はいお弁当」
「…………」
「今日は甘ーい卵焼き作ったんだ!」
渡されたお弁当をただじいっと見詰めつつ、私の話に小さく頷く。
近くにあった机と椅子を西山くんの席の隣に運んだ後、自分用のお弁当箱が入った包みに手を掛ける。
中身はほぼ西山くんのものと一緒。
しいて言うならば、自分用のはかなり力を抜いているから見栄えはあまり良くない。
「どう?美味しい?」
甘党の西山くんのためにかなり甘めに作ってみた卵焼き。
実は今日が初挑戦だから少しばかり緊張する。
期待やら不安やら入り混じった想いで、卵焼きを一口口に含ませた西山くんに問い掛ける。
5秒が経過しても返事を返してくる素振りを見せないで黙々と口を動かしているということは、やはり不味かったか。
少しでも口に合っていれば、頷いてくれるくらいはしてくれるはずだから。
(……失敗、かな)
試しに自分の卵焼きを食べてみようにも、私のは大して甘く作ってないからその味さえよく分からない。
今日家に帰ったら卵焼きの練習でもしようか。
明日までにはとことん極めてこよう。
ザ・卵道!なんつって。
「西山くん!どうか失望しないで待っててね、私頑張ってくるよ!」
「…………ごちそうさま」
「え」
強く意気込んで西山くんの方を向くと、丁度お弁当を差し出されているところだった。
は、早くない?もう食べっちゃったのかな。
それとも、不味くて食べられなかったとか。
なんて想像しては勝手に落ち込んで、沈んだ気持ちでそれを受け取る。