西山くんが不機嫌な理由





小さい頃から芝居をするのが苦手だったわけではない。



幼稚園のときも、きちんと演技は出来てた。


(雑草の役だから立ってるだけで良かったんだけれど。)



しかしながら滅法情に流されやすいためか、今でも理屈を分かりきったはずなのに動揺しっぱなしである。



「返事はいらないよ。呉羽ちゃんには西山くんという彼氏がいるんだし」

「(これは演技。お芝居。作戦!)」

「でも俺諦めないから。呉羽ちゃんが西山くんと別れるまでずっと好きだから」

「(にんじん。ごぼう。ピーマン。豚汁!)」



一度でも山城くんの言葉を真に聞き入れたら危険なので、なるべく別のことに意識を集中する。



と。


いつの間にか山城くんの話は終わっていたらしく、肩に回されていた腕を解放される。


ヤキモキ大作戦その①とやらが終わったのだろうか。



山城くんの顔は満足感に浸っているようで、どこから見ても自身満々なご様子。



作戦の目的も結果も、その意図すらもまだ分からないというのに。


なんでそんなドヤ顔なんだ。



そもそも、西山くんはご就寝中なんだ。


これが西山くんに聞かせるためのものであったとしても、当の本人が聞こえていなければ意味がないじゃんか。



じいっと山城くんの顔を見つめていると、やがてその視線に気が付いたのかそっと耳に顔を寄せてくる。



「昼休みが終わったあと、屋上にきて」



そう小さく囁いた後、こちらの返事も待たずに悠々と歩きながら教室から去って行った。



昼休みが終わったらすぐに授業が始まるのに、サボれとでも言いたいのだろうか。


いやまぁサボってもいいけども、どうせ午後の授業は爆睡するだろうから。



「…………なぎ」

「え?あっ、西山くん起きた!?」

「…………うるさ」



不意に名前を呼ばれたと思ったら、机に俯せていた西山くんがむくり、上半身を起こしていた。



い、いつ起きたんだろう。


眠たそうに欠伸をしている西山くんを見て、つい先程のことだろうと推測する。




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