西山くんが不機嫌な理由
教室の前で別れるとき、西山くんは一度もこちらを振り返ることなく、颯爽とクラスの中へと姿を消した。
いつもなら名前を呼ぶと必ず振り返ってくれていたのに、今日の西山くんは絶対に様子が可笑しい。
重たい溜め息を吐きつつ自分の教室に入り席に着く。
クラスの人はまだまばらで、あまり騒々しくもなければ静かだというわけでもない。
ぐるりと周りを見渡してみるものの、探している姿は一向に見当たらない。
「(山城くん、遅いなあ……)」
「お、なになに?」
「わあっ」
沈んでいた顔を上げる。
満面の笑みを浮かべた山城くんが目の前にいて、思わず身体が仰け反った。
暴れる心臓を必死になって抑えつつ、ぐいっと顔を近付ける。
「あれ。呉羽ちゃん積極的だね」
楽しそうにけらけら笑う山城くん。
だけど、今はそれどころではない。
「に、西山くんの様子が可笑しくなっちゃった!」
半ば泣きそうな気持ちで訴え掛けると、不意に神妙な顔付きになった山城くんが「それで?」先を促してくる。
「ぬ?」
「どんな風に可笑しいの?」
「ま、まじまじと顔を見てきたり。あ、それは化粧が失敗したからなんだけどね」
言いながら、朝のホームルームが始まる前にお手洗いに行って化粧を落としてこようと考える。
「……いや。お見事だよ」
感嘆の声を漏らす山城くんの視線はがっつりこちらの顔に向けられていて、はて、言葉の意味を理解しきれず首を傾げる。