西山くんが不機嫌な理由
「山城くんのお馬鹿!わ、私に手を出そうだなんて百万年早いんだぜ!」
山城くんは暫し呆気に取られたあと、再びへらり口角を緩く上げてこちらを見る。
「呉羽ちゃん。どこをどう勘違いしたのか分からないけど。とにかくメイクは落とさなくていいよ」
至極淡々とした口調で言う。
もしかしたら、それほど出来は悪くなかったのかもしれない。
それとも山城くんは優しい心の持ち主だから、私を傷付けないよう気遣ってくれているのか。
素直にこくりと頷くと、満足気味に笑う山城くん。
「西山くんは単に驚いてただけだと思うよ」
「え!?やややっぱり不細工になってる!?」
「よーしちょっと落ち着こうね」
今にも取り乱しそうな私を宥めつつ、座っていた席から立ち上がりこちらに近付く。
腰を抱きすくめられ、軽々と持ち上げられた。
「どうやら、今朝の俺の登場は意外と良い引き金になったようだね」
「引き金?」
なかなか理解し難い遠回りな言い方をする。
クエスチョンマークをもくもく浮かび上がらせていると、山城くんがうすら笑いを浮かべて首の付け根を触る。
くすぐったいそれに思わず肩を竦める。
「これ、西山くんが付けたんだね」
言いながらその視線はこちらに向けられてはいなくて、顔は動かずに黒目がちな瞳は教室の出入り口に向けられている。
何を見ているのかなと、釣られて顔を横に向けようとした。
と。
唐突に頬を両手でがっちりと包まれて身動きが出来なくなった。