西山くんが不機嫌な理由
そのまま勢いで顔を上に向かされる。
視界に飛び込んできた山城くんのドアップに驚く隙も与えられずに、瞬きをした次の瞬間には、確かに唇に何かが押し当てられていた。
「(…き、きききキス!?まさかキスですかこれは!!)」
なんて、ぶっ飛ぶ思考はここまでに留めておき。
その何かが山城くんの人差し指だということ気が付くのに、さほど時間は掛からなかった。
近すぎる顔の微かにできた隙間に挟まれたそれ。
周りから見れば、明らかに誤解されてしまうであろう体勢。
案の定、徐々に教室内でざわめきが起こり始める。
「やっ、やまし、」
混乱しつつも、とにかく声を上げようと試みる。
するとそんな私の試みを見通しているのか、口を噤ませるように親指と人差し指で唇を摘まれる。
目を大きく見開くと、更に面白がるように摘んだ口をみよーんと伸ばされる。
「(いいっ、いたいいたい唇腫れますぜこれ!!)」
目尻に涙をどっぷり溜め込み悲痛な視線を投げつける。
そんな姿を目にしてもなお山城くんは終始楽しげな表情を崩さずに、声を抑えて耳元に顔を近付けてくる。
「ごめんね呉羽ちゃん。あと5秒我慢したら、きっといいこと起こるから」
「(……いいこと?)」