西山くんが不機嫌な理由





全て元の位置に正して置き直し、ふと何の気なしに机全体を見渡してみる。



途端、視界に飛び込んできた1枚のハンカチに違和感を覚える。




紺青色がメインのストライプのハンカチ。



それを一見しただけでは、何の変哲もないように感じられるけれど。




ピンクやら白やら、明らか女の雰囲気が漂うこの空間から見れば分かり易く不自然さが際立つ。




丁寧に折り目に沿って畳まれたそれは、いかにも大切そうなもので。



どこか見覚えのある模様だなと、記憶を張り巡らせつつハンカチをそうっと手に取る。




アイロンまでしっかり掛けられている。



だけど、どう見たってこれは男物であって、凪の所有物とは到底思えない。




なかなか解けない疑問を胸に抱く。




と。次の瞬間。



全開の窓から侵入してきた風に眉を顰める。




閉めようと窓際に近付いたとき、ふわり、淡く薫ったシトラスの匂い。







頭の片隅で眠っていた記憶が呼び戻される。



細かな状況背景まではさすがにうろ覚えになっているけれど、確かな確証はある。




高校に入学してまだ間もないときのこと。



下校途中の帰路で、地面に座り込んだままの制服姿の女がどうしてか目についた。




周りから好奇の視線を浴びながらも、何故か立ち上がろうとしない女の前に庇うようにして立つ。




誤って転び膝を擦り剥いたと、聞いてもいないのに拗ねたような口調の女に半ば呆れるつつ、ポケットに偶然(母親が勝手に)入れてあったハンカチを差し出した。



見ず知らずの男から受け取ったハンカチを、珍しいものでも目の当りにしたかのように大袈裟に目を見開く女。



その驚きを隠せない表情から、気が付けば周りにぱっと花を咲かせて満面の笑みを見せた。





そのときの彼女の顔が、今でも鮮明に思い出すことが出来る。







今手元にあるハンカチの本当の持ち主は、紛れもない自分だ。




あの時出くわした女は、他の誰でもない。



呉羽凪だった。




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