西山くんが不機嫌な理由
「えっ!ややや山城くん!?わわわ私には西山くんという立派な恋人がががががっ」
「しー、呉羽ちゃんちょっと落ち着いて」
「え……?」
耳元で声を抑えて話す山城くんに、釣られてこちらも自然と小声になる。
私が落ち着いたのが分かった山城くんは、「ずばり」話を始める。
出来ればいつ西山くんが起きても可笑しくないこの状況下で、誤解を生むような体制をとるのは遠慮してほしいところだけれど、まぁいいとしよう。
「これが“西山くんにヤキモチを妬かせちゃおう大作戦その①!”」
「な、長いね」
「そう?じゃあ略してみる?」
「うむ。これじゃあ舌噛んじゃいそうだしね」
「それもそうだね。じゃあ“ヤキモキ大作戦”にする?」
「いや。ここは“西山くん大作戦”だしょ」
「どんな作戦だ」
「“ひたすら西山くんが大好きです同盟”」
「なんか趣旨変わってるから。同盟になってるし」
そもそも俺別に西山くん好きじゃないし。
なんて、こちらの癪に障ることを言う山城くんの足を思い切り踏み付ける。
そのままの体制で脱線した話題を、小声で延々と話し続けるのはここまでにして。
結局作戦の略称は“ヤキモキ大作戦”となった。
なるほど、朝山城くんが言ってたいい考えとはこの作戦のことかな。
「詳しいことは後で説明するから。今はちょっと俺の言うことを黙って聞いてて」
「らじゃ」
「それじゃあ早速…」
山城くんがそう呟いた次の瞬間、すぐ後ろにあった黒板に背中を叩きつけられた。
すごい音がしたわりに背中の痛みは全くなかった。
代わりに山城くんが拳で強く黒板を叩いていたのだ。
ささやかな裏の仕組みに感心していると、山城くんの真剣な顔がすぐ前に来ていた。
「や、山城く」
「呉羽ちゃん。俺と付き合おう」
「ええええええ!]
これがお芝居だということをすっかり忘れて、めいっぱい本気で驚いてしまった。
だって、山城くん演技上手すぎますぜ。
西山くんに背を向けているのだから(ていうか西山くん寝てますが)、そんな表情まで凝る必要なんかないのに。
「ずっと前から呉羽ちゃんのこと見てたんだ…」
「え、嘘!……あ、えぇっ?」
そんな真剣な顔を向けられると、本気にしか思えないから困る。