初恋の証 (BL



 教室に戻ると、そこに宮田の姿はなかった。
 弁当を見るとまだ食べかけのまま。
 近くにいた生徒に「宮田知らない?」と聞くと、

「おまえが出てったちょっと後、あいつもどっか行ったよ」

 という答えが返ってきた。
 どこに行ったのだろう と一瞬考えたが、昼休みが始まった時に高山のところに行くと二人で話していたことを思い出した。

(先に行っちゃったのか)


 自分も高山の元へ行くことにし、
 佐伯は開いて置きっぱなしにされていた宮田の弁当の蓋を閉めてやってから再び教室を後にした。



 廊下に出るとちょうど宮田のクラスメイトに遭遇した。

「あれ? お前ら職員室行ってたんだろ? もう部活の話終わったの?」

「おー。 やっと昼飯食えるよ」

「宮田は今頃一人で食ってんだろーな、不憫だな、不憫」

「宮田ならうちのクラスで食ってたよ。
 つってもまだ途中だけど」

「途中ってことはあいつどっか行ったの?」

「うん。高山んとこ。あいつ具合悪くなって保健室行ってるから心配で見に行くことにしたんだよ」


「マジかよ。オレらも後で見舞い行ってやるか」

「そうだな」


「じゃあ高山にもそう言っとくよ。
オレ先行ってるね」

「おお。またあとでな」



 二人と別れ、1階にある保健室へと向かう。
 そして保健室の前まで来たとき、佐伯は先輩に呼び出される直前に、宮田と微妙な空気になっていたことを思い出した。

(……あの話の続き、されんのかな)

 そう思うと切なさと動揺がこみ上げてきて、手をかけたままの扉をなかなか開けることができなかった。



 今度はちゃんと上手くかわさなければ と必死に自分を律していつものように笑顔を無理矢理作る。

 だいじょうぶ。
 笑える。


 意を決して扉を開けた。


――ガラッ


「あ。やっときたー」


 最初に飛び込んできたのは、待ちくたびれたと言わんばかりの宮田の声と、
 笑顔だった。
 そのいつもと変わらない相手の様子にホッと安堵の息を漏らす。
 そして同様に自分も笑って見せた。



「ごめんごめん」

「先輩って誰だったの?」

 宮田は高山がいるベッドの横にあるベッドでくつろぎながら、そう聞いた。
その質問に一瞬ドキリとしたが、笑顔を崩さずに、



「なんか、女の先輩にマネージャーになりたいって言われてさ」


 嘘をついた。

 どうしてそんな嘘を吐いたのかは自分でもわからなかった。



「……マネージャー……?
 へぇ!じゃあまた部に女子が増えんのかぁ~。楽しみぃ~」

「あ、でも色々マネージャーの仕事のことを詳しく話したら、やっぱりやめとくって言ってたから」


「えー!なんだよ~」


 つまらなさそうに頬を膨らませる宮田。
 その横にさり気なく座る佐伯。

 遠からず、近からず。
 手を伸ばせば届かない距離ではないけれど、けしれ触れ合いはしない距離。

 それが今の二人の 距離だった。


「高山は……寝てるのか」

 チラリと高山を覗き見て、その様子を伺う。
 顔色はだいぶよくなっているようだった。
 それを見てホッと安心する佐伯。
 保健室には他に生徒はいなく、保健医も不在だった。
 だからこの場には佐伯と宮田、そして眠っている高山のみがいる。

 騒がしい教室から離れたここは、とても居心地の良い静けさが広がっていた。


 幸い、佐伯が不安に思っていた“教室での話の続き”を宮田は切り出してこなかったし、
 態度も何もおかしなところはなかった。

 横目で宮田を見て、
 あれやこれやと他愛の無いことを話す横顔に胸を焦がす。


 笑って、時折頬を膨らませて、
 自分に話しをしてくれる宮田。


茶色の髪。
目じりが垂れ気味の眼。
独特の声。
すぐに髪の毛を触る癖。
けして賢いとは思えない喋り方。


ひとつ ひとつ
今眼に映るもの
今感じるもの
すべてを焼き付ける。

いつかこうして傍で君を見ることができなくなる日がくるから。


 いつかこうして近くに君を感じることができなくなる時がくるから。




 今のうちに、強く焼き付けておく。





 苦しくても、
 切なくても、
 痛くても、
 報われなくても、

 これが君を想い続けることしかできない
 オレの精一杯の



 現実への抵抗。



 精一杯の 片思いの仕方。



 届かなくてもいい。
 気づいてもらえなくていい。
 知ってくれなくていい。



 オレのこんな一方的な恋は、
 開くことなく散ってしまっていい。



 君がいつまでもその笑顔を絶やさないでいてくれるなら、



 それでいい。



 いつか、この君といる日々が思い出に変わったとしても


 オレは後悔はしないだろう。



 きっと 今の自分を褒めてやることができるだろう。



 こんなにも一生懸命、





 恋をしているのだから……。









 あと二回桜が咲くまでは、

 傍にいさせてほしい。


 せめてこの高校生活の間だけは、

 君の傍に。



 誰にも話せない愚かなものだけど、

 別々の道を歩んでいく その日までは

 君に恋をさせてほしい。




 初めての恋だから、

 せめて あと少しだけは……


 君を好きでいさせて下さい――。




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