Dream doctor~心を治す医者~
*
「この度は本当にありがとうございました」
直樹達を乗せたベンツは関原邸を後にし、あの古びた洋館へと向かっていた。
時刻は夕暮れ時。夕日が雲を照らし、赤く染まった空を、烏たちが家路を急ぐように山へと帰っていく。
"獏"を「削除(デリート)」し夢から出た後。彩音はすぐに目を覚ました。
目を覚ました彩音は、何事もなかったかのように元気だった。どうやら、まだ心までは喰われてはいなかったようだ。
もし、もう少し遅ければ手遅れになっていたかもしれない。
「とんでもないです! "獏"に取り憑かれた人達を助けるのが私達の役目ですから! 」
どんと胸を張り、自信満々に頷くカレン。その隣で、にこにこしている浩史。
そんな二人をぼーっと見つめながら、直樹はさっき戦った"獏"の事を思い出していた。
―彩音の中に潜んでいた"獏"……。二年前とは比べ物にならないくらいスピードが上がっていた……。
姿を消していた二年間……、力を蓄えてたって事か……?
「着いたぞー」
浩史に肩を叩かれ、思考を遮られる。考え事をしている間に着いたようだ。
ベンツは、目的地である洋館の前へと停車していた。
「それでは皆様、こちらは今回のお礼でございますわ」
車を降り、運転手から黒いスーツケースを受け取った玲子は、直樹達が降りたことを確認し、それを開いた。
スーツケースの中には、一万円札の束が何束も詰め込まれていた。軽く五百万はあるだろう。その札束の量にさすがの直樹も、驚かざるを得なかった。
「……こんなにも……いいんですか? 俺達は大したことはしてませんが……」
その言葉で、カレンと浩史の「大人しくもらおうよ」という視線を感じたが、ここは無視することにする。
「彩音を助けていただいたのですもの。これくらい当然ですわ。研究の費用にお使いください」
スーツケースを閉じ、にこりと微笑むと直樹へと差し出す。
直樹は少し悩んだ後、頭を下げそれを受け取った。
「ありがとうございます。ありがたく使わせていただきます」
直樹のその言葉に玲子は満足そうな笑みを浮かべた。深く頭を下げベンツに乗り込むと、微かに夕日が差し込む、薄暗い森の中へと走り去っていった。
ベンツが見えなくなった頃。後ろに立っていたカレンが堰を切ったように喋り出した。
「マスター! これだけあれば、美味しい物食べれますよ!! 何にしましょうか? ステーキ? それともお寿司? 」
「高級レストランってのも良いよね! フルコースで! 」
「……全部研究費用に使わせてもらう。お前の馬鹿高いメンテナンス費用にな」
嬉しそうに話すカレンの額をコツンと小突き、屋敷の玄関へと向かう。
後ろから期待を裏切られた二人の、「えーーっ! 」という残念そうな声が耳に届いた。
この日の夜もいつもと変わらず、屋敷には賑やかな声が絶えることは無かった。
いつもと変わらない夜。明日もまたいつもと変わらない朝が来るのだろう。
―そう思っていた。
直樹はまだ知らない。この日、彩音に取り憑いた"獏"。
それが、これから人々を恐怖に貶める、ほんの序章に過ぎなかったことを――――。
「この度は本当にありがとうございました」
直樹達を乗せたベンツは関原邸を後にし、あの古びた洋館へと向かっていた。
時刻は夕暮れ時。夕日が雲を照らし、赤く染まった空を、烏たちが家路を急ぐように山へと帰っていく。
"獏"を「削除(デリート)」し夢から出た後。彩音はすぐに目を覚ました。
目を覚ました彩音は、何事もなかったかのように元気だった。どうやら、まだ心までは喰われてはいなかったようだ。
もし、もう少し遅ければ手遅れになっていたかもしれない。
「とんでもないです! "獏"に取り憑かれた人達を助けるのが私達の役目ですから! 」
どんと胸を張り、自信満々に頷くカレン。その隣で、にこにこしている浩史。
そんな二人をぼーっと見つめながら、直樹はさっき戦った"獏"の事を思い出していた。
―彩音の中に潜んでいた"獏"……。二年前とは比べ物にならないくらいスピードが上がっていた……。
姿を消していた二年間……、力を蓄えてたって事か……?
「着いたぞー」
浩史に肩を叩かれ、思考を遮られる。考え事をしている間に着いたようだ。
ベンツは、目的地である洋館の前へと停車していた。
「それでは皆様、こちらは今回のお礼でございますわ」
車を降り、運転手から黒いスーツケースを受け取った玲子は、直樹達が降りたことを確認し、それを開いた。
スーツケースの中には、一万円札の束が何束も詰め込まれていた。軽く五百万はあるだろう。その札束の量にさすがの直樹も、驚かざるを得なかった。
「……こんなにも……いいんですか? 俺達は大したことはしてませんが……」
その言葉で、カレンと浩史の「大人しくもらおうよ」という視線を感じたが、ここは無視することにする。
「彩音を助けていただいたのですもの。これくらい当然ですわ。研究の費用にお使いください」
スーツケースを閉じ、にこりと微笑むと直樹へと差し出す。
直樹は少し悩んだ後、頭を下げそれを受け取った。
「ありがとうございます。ありがたく使わせていただきます」
直樹のその言葉に玲子は満足そうな笑みを浮かべた。深く頭を下げベンツに乗り込むと、微かに夕日が差し込む、薄暗い森の中へと走り去っていった。
ベンツが見えなくなった頃。後ろに立っていたカレンが堰を切ったように喋り出した。
「マスター! これだけあれば、美味しい物食べれますよ!! 何にしましょうか? ステーキ? それともお寿司? 」
「高級レストランってのも良いよね! フルコースで! 」
「……全部研究費用に使わせてもらう。お前の馬鹿高いメンテナンス費用にな」
嬉しそうに話すカレンの額をコツンと小突き、屋敷の玄関へと向かう。
後ろから期待を裏切られた二人の、「えーーっ! 」という残念そうな声が耳に届いた。
この日の夜もいつもと変わらず、屋敷には賑やかな声が絶えることは無かった。
いつもと変わらない夜。明日もまたいつもと変わらない朝が来るのだろう。
―そう思っていた。
直樹はまだ知らない。この日、彩音に取り憑いた"獏"。
それが、これから人々を恐怖に貶める、ほんの序章に過ぎなかったことを――――。