恋のはじまりは曖昧で

「俺も彼女はいないよ」

「そうなんですか?でも、主任はモテますよね」

意外な答えに驚き、正直な感想が口をついて出た。

「あー、まぁ、否定は出来ないけど……。正直、以前は適当な付き合いばっかりで褒められたようなことはしてなかったんだよね。でも、一人の女性に出会って改心したんだ。その人のことが本当に好きだったから。それで気持ちを伝えたけど見事に振られたよ」

苦笑いしながら、ポリポリと頬を掻いた。
田中主任の過去を本人の口から聞けるとは思わなかったので驚いた。
きっと、私が何の疑問も持たずに田中主任はモテますよねと言ったので、話してくれたんだろう。

一人の女性というのは、以前、橋本さんたちが話していた河野課長の彼女のことだよね。
田中主任が今までの付き合い方を改めたくなるような女性だから、きっと素敵な人に違いない。

ふと、弥生さんの『もしかして、まだ花音ちゃんに未練とかあったりするんですかね?』という言葉が頭を過った。
その時、橋本さんは、それは本人にしか分からないことだと言っていた。

今、その本人が私の目の前にいる。

心のどこかでずっと気になっていることがあった。
すでに大胆なことを聞いてしまっているんだ。
こんなチャンスは二度とないと思った私は、ストレートに質問をぶつけていた。
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