恋のはじまりは曖昧で
目が合うなんて思っていなかった私は焦りながら口を開いた。
「田中主任、コーヒーでも飲みますか?」
「あー、せっかくだけど遠慮しとくよ。今さらだけど、一人暮らしの女の子の部屋に男がいちゃまずいだろ。それに、高瀬さんの彼氏も誤解しちゃうんじゃないのか?」
「か、彼氏なんていないです」
首を左右に振り、慌てて否定した。
別に慌てる必要なんてなかったけど、咄嗟に田中主任には誤解されたくないと思ったんだ。
私の間髪入れない言葉に、田中主任もそれ以上、答えようがなかったんだろう。
そうか、と一言。
気まずい空気になるのが嫌で、何か話さなきゃと思った時、自然と私の口が開いていた。
「田中主任こそ彼女さんはいないんですか?」
「え、俺?」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべる。
それを見て、私はなんて大胆なことを聞いてしまったんだろうと焦り、視線をさ迷わせる。
「あ、いや、その……」
私に彼氏がいないという話の流れで、つい田中主任のことも気になって、なんて言えないよ。
今さら口に出した言葉を引っ込めることも出来ず。
かといって、勢いのまま上司に向かって追求する度胸は一ミリもない。
あー、出来ることなら二分前に戻ってやり直したい。
自己嫌悪に陥っていると、田中主任の穏やかな声が耳に届いた。