恋のはじまりは曖昧で

別に濡れていても構わないのに……。
そんなことを思いながら急いで洗面所にバスタオルを取りに行く。
収納棚に置いていたバスタオルを手に田中主任の元へ戻った。

「これ使ってください」

バスタオルを手渡すと、田中主任はおもむろにそれを広げ、ふわりと私の頭を包んだ。

「えっ!?」

「自分は全然拭いてないだろ。髪の毛から滴が垂れてる」

まさか、そんなことをしてくれるとは思っていなかったので、身体が固まってしまった。
田中主任は優しく丁寧に私の髪の毛を拭いてくれた。
こんなことされたら私の心臓がもたないよ。

「あ、あの、もう大丈夫なので主任も拭いてください。新しいタオル、持ってきます」

「いや、このタオルで十分だよ」

髪の毛やスーツを拭き、田中主任は濡れた髪を無造作にかきあげた。

私も手櫛で乱れた髪を直していると、ブルッと身震いした。
夏とはいえ、夜だし雨に濡れているので身体が冷える。
何か温かい飲み物を飲んで身体をあたためた方がいいかも。

「田中主任、上がって何か温かい物でも飲まれますか?」

私が聞いた後、田中主任はなぜか困ったような表情になる。
どうしたんだろう。
私、何か変なこといったのかな?
< 152 / 270 >

この作品をシェア

pagetop