恋のはじまりは曖昧で
***
資料作成に必要だったファイルを資料室に戻すためにエレベーターに乗った。
ちょっと欲張りすぎたかな。
一度に済まそうという考えで、五冊まとめて胸に抱えて持っていた。
資料室のある階で降り、歩いて向かっているとちょうど曲がり角のところで、ドンという衝撃が襲う。
「わっ」
「キャッ」
ぶつかった弾みで身体がグラリと揺れ、そのまま後ろへ尻餅をついた。
持っていたファイルが廊下や自分の身体の上にも落ちる。
それよりも、強打したお尻がジンジンと痛い。
「ごめんなさい。大丈夫?」
私とぶつかった相手は無傷だったみたいで声をかけてくれる。
「はい、大丈夫です。私の方こそすみません」
謝罪し顔を上げると、そこには経理の森川さんがいた。
「あなたは……」
私の顔を見て眉間にシワを寄せる。
スカートの汚れを払いながら立ち上がり、落ちていたファイルを拾っていると森川さんは立ち去ることなく、じっと私を見ている。
どうしたんだろうと思っていたら、おもむろに口を開いた。
「ねぇ、高瀬さん。あなた彼氏いるんでしょ」
「えっ、」
突然のことに動揺して返す言葉もなく、ただ目の前の森川さんを見つめていたら思いもよらない言葉を発した。
「私、見たのよね。道路であなたと男の人が抱き合っているの」
それを言われた瞬間、昼に薫から聞いた話を思い出す。
資料作成に必要だったファイルを資料室に戻すためにエレベーターに乗った。
ちょっと欲張りすぎたかな。
一度に済まそうという考えで、五冊まとめて胸に抱えて持っていた。
資料室のある階で降り、歩いて向かっているとちょうど曲がり角のところで、ドンという衝撃が襲う。
「わっ」
「キャッ」
ぶつかった弾みで身体がグラリと揺れ、そのまま後ろへ尻餅をついた。
持っていたファイルが廊下や自分の身体の上にも落ちる。
それよりも、強打したお尻がジンジンと痛い。
「ごめんなさい。大丈夫?」
私とぶつかった相手は無傷だったみたいで声をかけてくれる。
「はい、大丈夫です。私の方こそすみません」
謝罪し顔を上げると、そこには経理の森川さんがいた。
「あなたは……」
私の顔を見て眉間にシワを寄せる。
スカートの汚れを払いながら立ち上がり、落ちていたファイルを拾っていると森川さんは立ち去ることなく、じっと私を見ている。
どうしたんだろうと思っていたら、おもむろに口を開いた。
「ねぇ、高瀬さん。あなた彼氏いるんでしょ」
「えっ、」
突然のことに動揺して返す言葉もなく、ただ目の前の森川さんを見つめていたら思いもよらない言葉を発した。
「私、見たのよね。道路であなたと男の人が抱き合っているの」
それを言われた瞬間、昼に薫から聞いた話を思い出す。