恋のはじまりは曖昧で

広報部に私が写っている写メを見せていたのは経理の人って言ってたけど、それって森川さんのことだったの?

「私はこの目で見たのよ。ラーメン屋の近くの自動販売機の横で抱き合っていたのを」

場所を特定され、森川さんが私と海斗の写真を撮ったのだと確信した。
どうして、森川さんに敵視されているのか分からないけど、私は正直に話すことにした。

「確かに森川さんが見たのは私だと思います。だけど、あの男性は幼なじみで彼氏ではありません。それに抱き合っていた訳ではないです」

「よくもまあ、そんなことが言えるわね」

森川さんの迫力に負けそうになる。
だけど、誤解されたくないという気持ちの方が勝っていた。

「それでも、森川さんが思っているような関係ではありません」

キッパリと言い放つ。

「何よ、開き直って。前々から気に食わなかったのよ。やたら田中主任があなたを構っているって加藤さんから聞いていたし」

腕組みをしながら私を見据える。

田中主任の名前が出たことにドキッとした。
まさか、ここでその名前を耳にするとは思ってもいなかった。
それより、田中主任が私を構っているってどういうことなんだろう。
加藤さんがそんなことを言ってたの?
訳が分からなくなり、パニック寸前だ。

「こんなところで何してんの?」

背後から声がし、振り返るとファイルを手にした橋本さんがいた。
< 208 / 270 >

この作品をシェア

pagetop