恋のはじまりは曖昧で

「それにしても、いいとばっちりよね。紗彩側は何もしていないのに、いきなり難癖をつけられるんだから。まぁ、あの田中絡みだから仕方のないことだと思うけど」

そう言って橋本さんは苦笑いする。
田中主任より先に入社している橋本さんだから、田中主任のあれこれを知っているんだろう。

「でもね、私も最近の田中の行動には驚いているんだよね」

「えっ?」

「いや、なんでもない。じゃ、ファイルよろしくね」

はい、と私にファイルを渡して背を向けた。
急な話の展開に反応が遅れ、聞き返すことが出来なかった。
あっという間に橋本さんの姿が見えなくなった。
このまま廊下に突っ立っているわけにはいかないので、私は資料室に足を進めた。

さっきの言葉はどういうことなんだろう。
もしかして橋本さんは何か気付いているんだろうか。
気にはなるけど『なんでもない』と言われてしまったし、話を蒸し返すことも出来ない。

あと、森川さんの田中主任が私に構っているっていう話も引っかかる。
加藤さんから聞いたって言ってたけど、それを直接聞ける訳ないし。
加藤さん、いったいどんな内容の話をしていたんだろう。
モヤモヤしながらファイルを片付けた。
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