恋のはじまりは曖昧で
「紗彩、ファイル一冊忘れてたわよ。それで、あなたは何が言いたい訳?」
橋本さんは私の隣に並び、森川さんに問いかける。
話が聞こえていたんだ。
「何がって、田中主任がこの子をよく構ってるって話を聞いたから……」
「それが何?そもそも、田中が誰を構っていようが森川さんには関係ないことだと思うけど。それに気になるなら紗彩にじゃなく田中に直接聞けばいい話でしょ。田中が構っているってことは、紗彩は構われている側なんだから、聞く相手を間違えているでしょ。あと、あなたは言動に気を付けた方がいい。相手を平気で傷つけるような無神経なことはするのはよくないと思うわ。社会人としてというか、人として最低限の思いやりを持つべきね」
橋本さんの言葉に森川さんは俯いて唇を噛みしめる。
結構、キツイことを言っている気がする。
「そう、ですよね。失礼しました」
森川さんは何も言い返すことはなく、軽く頭を下げて背を向けた。
私はホッと小さく息を吐いた。
「橋本さん、ありがとうございました」
「私は思ったことを言っただけで、なにもしていないけどね。紗彩もよく頑張ったね。足がプルプル震えてたけど」
私がお礼を言うと、橋本さんがクスッと笑う。
緊張で足が震えていたのがバレていたなんて……情けないし恥ずかし過ぎる。