恋のはじまりは曖昧で

「俺の遅咲きの初恋は見事に砕け散ったよ。それからは、人に褒められるような付き合い方はしなくなったというか、特定の相手を作ることが怖かった。また、裏切られるんじゃないかと思って……」

目を伏せ、ギュッと拳を握っていた。
その姿を見て胸が痛んだ。

あ、そういうことだったんだ。
近藤さんが言っていた恋愛で痛い目に遭ったという言葉と繋がった。
田中主任は初めて付き合った人に浮気され、それがトラウマになってしまった。
それから、本気で恋愛をすることが怖くなりいろんな人からの誘いにのるようになったんだ。
田中主任がチャラいと言われるような付き合い方をしていた原因が分かった気がした。

「それを今さら会いに来てやり直したいとか勝手すぎるだろ。あの女のせいで恋愛に対して嫌な思い出しかなかったって言うのに!」

言葉の端々に苛立ちを含んでいる。

それは、私も同じ気持ちだ。
今頃になってどの面下げて田中主任に会いに来たって言うのよ!
自分勝手なことして田中主任を傷付けて最低だ。

私の方が町村さんより田中主任のことを想っているんだから。
自己中で非常識な人に負けるつもりなんてサラサラない。
何がモデルよ!と心の中で毒づいた。

「あの人さ、あまり仕事が上手くいってないらしい。話の流れで近況を聞いたら言葉を濁してたから……」

少しトーンを落として話す。
< 260 / 270 >

この作品をシェア

pagetop