恋のはじまりは曖昧で

「読者モデルになって周からチヤホヤされていた時はよかったのかもしれないけど、何か武器がないと生き残っていけない世界だと思う。次から次へと新しい子が出てきて、自分の居場所がなくなってきたんだろう。俺に声をかけてきたのも、自分が絶頂期だった頃を思い出して何かに縋りたかったのかもな……」

田中主任の口調は同情が混じっているようにも感じられた。
どこの世界も何か武器になるものを持っている人が強いんだ。
そういえば、浅村くんも一芸を持っていたから重宝されていたし……って次元の違う話だけど。

「だからって、どうして俺とやり直せると思ったのか理解不能だけどな。俺はやり直すつもりは一ミリもないからとハッキリ断ったよ。それと、二度と俺の前に姿を現すなって釘をさしておいた」

フン、と吹っ切れたように鼻で笑い、私の手を握ってきた。

本当にそうだと思う。
何年も経っているのやり直せると思っていたなんて驚きだ。
そんなの虫がよすぎる。
町村さんはよっぽど自分に自信があったんだろう。

「ごめんな。こんな話、本当は聞きたくなかったよな」

すまなそうな表情で謝る。

「いえ、そんなことは……」

言いかけてピタリと止める。
こんなこと嘘をついてどうするんだ。

田中主任だって言いたくない過去の話をしてくれたんだ。
だったら、自分の気持ちを正直に伝えなきゃいけない。
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