恋のはじまりは曖昧で

***

髪の毛を撫でられているような心地よい感触に目が覚める。
ん、と寝返りを打ちゆっくり目を開けてはみたものの、寝起きで焦点が合わずボーっとしてしまう。
目を擦り、何度か瞬きしていたら至近距離で私を覗き込んでいる田中主任の顔が目の前にあった。

一気に心拍数が上がる。
寝起きに田中主任の王子様フェイスは心臓に悪い。

「お、おはようございます」

「おはよ、ってまだ五時だけどな」

そう言って私の額に口づけた後、ベッドを背もたれにしてラグに座り直した。
田中主任は私より先に起きていたみたいだ。

それにしても、朝からこんなに甘い雰囲気でドキドキする。
しかも寝顔を見られていたと思うだけで、変な顔してなかったかな?とか気になってしまう。
私はのっそりとベッドから起き上がり、田中主任の隣に座った。

「いつから起きてたんですか?」

「さっき起きた。朝一で現場に行かないといけないから」

そっか。
昨日は泊まったから、一度家に帰らなきゃいけないよね。
着替えとか準備があるだろうし。

「何だよ、そんな寂しそうな顔すんなって」

笑いながら私の鼻をキュッと摘む。
考えていることが全部顔に出ちゃうなんて恥ずかしすぎる。
たまにはポーカーフェイスで受け答えしたいよ。
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