恋のはじまりは曖昧で

まだ薄暗い静かな部屋で、田中主任は言葉を紡ぐ。

「俺はさ、紗彩と出会えて本当によかったと思っているんだ。出来ることなら、この先ずっと一緒にいたい」

「私もです」

「あのさ、意味分かってる?」

即答した私に怪訝そうな顔で聞いてくる。

「分かってますよ。私だって田中主任とずっと一緒にいたいです」

好きな人がいたら、そう思うことは当たり前だよね。
何でそんなことを聞いてくるんだろう。
変なこと言ったかな?
さっきの発言を思い返す。

“ずっと私と一緒にいたい”と言われて“私もです”って答えた。

何かずっと一緒って結婚するみたいだな、なんて思ってしまった。
えっ?け、結婚?
顔が真っ赤に染まっていく。
まさか、そんな意味はないよね?
チラリと田中主任を見ると、ジト目を向けられていた。

「ほら、分かってなかっただろ。でも、今さら拒否の言葉は受け付けないからな」

そう言って私を軽く小突いてくる。

「そ、そんなのしませんよ。田中主任こそ返品不可ですけど、いいんですか?」

恥ずかしさのあまり開き直って大胆なことを言ってしまった。
だって、そうでもしなきゃ居たたまれないから。
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