アイツ限定
「だれだよこいつ」
村上が、小さな声であたしに耳打ちしてくる。
だけど、あたしは何も答えることはできなかった。
動けなかった。
ただただ、必死に唇をかむことしかできなかった。
「どうもっ!マリの元彼の雅人(マサト)でーす。あ、お前よりも年上だから敬語使うように。村上聖也君」
以前と変わらない、ふざけた調子で言う。
あのときと、何1つ変わらない。
「黙れ、それ以上しゃべんなクソ野郎っ!」
あたしはそう言い放って、ものすごい勢いで帰り道を走った。
雲がどんよりとしていて、今にも雨が降りそうな天気だった。
はやくあの場から離れないと。
今のあたしにはそれしか、考えられなかった。
もう、あの日をくり返してはいけない。
あの最低男に飲まれてはいけない。
あたしはもう変わったんだから。
もう、信じないって決めたんだから。