悲し笑いの横顔
それから4度ほど扉の開閉音を聞き、私は目的の駅のホームへ降り立つ。
涙はもう止まっていた。
ヒールを鳴らし、背筋をしゃんとし私は駅を出て行く。鼻の先が赤いってのに、しゃんしゃん歩いているんだからなんとも変な話だ。
そうしていたのが“無理”だと分かってしまうように、すっかり人通りが少ない道に入ってしまうと、歩くペースはがくんと落ちる。
あー帰りたくない。
そう思ってる心情と比例しているみたいだ。
明日も仕事だからと、この一週間特に寄り道をしていなかったが、明日は週末、家に帰る理由も別段ない。
あと5分ほど歩けばアパート、というところでとうとう私は歩くのを止め、目に入った公園内へ入っていった。
当然こんな遅くに公園で遊んでいる人なんかいない―――赤い滑り台、二人分の青いブランコ、ベンチと砂場、典型的な遊具などがここには広がっている。
何年ぶりだろうと振り返りながら、比較的公園中央にあるブランコに私は座った。
軽く揺れてるだけってのに上下に動く度、ぎぃ、ぎぃ、不規則に鉄がすれる音がする。
…私が重いわけじゃないよね?
音が聞こえてくる、支持金具を思わず見上げる。
「ちょっと古そうだもんな。」
私の体重のせいじゃない、私はまた自分に言い聞かせた。
地に足をつけたまま、また軽くブランコを上下させる。夏だったらもっとこいだはずだけど、何分今は冬。頬に当たる風が冷たすぎてこれ以上漕ぐと寒さに耐えられなくなりそう。
「はぁ~あ。」
誰もいないのをいいことに思いっきりため息をついた。
だって、逃げるようにこうして公園に入ったってのに、それでも浮かんできているのは彼の残像だから。
はじめて手をつないだ日、デートした日、キスした日、一つになった日。
だけど最後は絶対、あの日の背中が私の頭を占領する。
未練なんてない、あんな最低オトコ。浮気オトコ。馬鹿オトコ。裏切りオトコ。
「大っ嫌い。」
思い出を振り払うようにまた呟いた。
その時、ほのかに背後から良い匂いが漂ってくる。
この匂い……ビーフシチュー?
「何してんの?こんな真夜中。」
同時にそう、誰かが私に言葉をかけてきた。